ドンドンドドドン四天宝寺!!

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AM6:00


あたしは四天宝寺テニス部部室前に立っていた。
部員はまだ誰一人として来てはいない。


それもそうだろう。
部活の開始時刻は6:30。
早く来る人がいても、15分くらいに来るんじゃないだろうか。
それなのに何故あたしがこんな早くにいるのかというとだ。



マネージャーの仕事は、まず部員たちのドリンク作りやタオルの準備、前日の練習で使われたものの洗濯などの雑用に始まり、試合形式の練習なんかのスコアの記入や怪我をした部員への手当てなどとやることが多いのだ。
そしてそれを部員たちと同じ時間に来て、練習開始と同時にそれらを始めたとしても絶対間に合わない。


ということは氷帝で学んだ。
というか学ばされた。


あいつら、一応マネージャーいるくせに何かとあたしにやらせやがって...。
出来てないと文句言う奴とかいるし。(とくに跡部。)
モタモタすんなだの、ドリンクが濃いだの、タオルが足りねぇだの、自分でやれや!!って何度言ったことか...。
その度に返されるのはいつだって、

「アァーン?俺様がそんなことするわけねぇだろ。」

という言葉。
しかも大真面目に言われる。
もうさ、反論することすらくだらねぇわ。

あんなんが部長で大丈夫なのかとは思うが、実際テニスは上手いし頭もいい。
だから作ってくる練習メニューなんかも効率的かつ部員一人一人の個性を生かせるものだし、何よりリーダーとしてのカリスマ性がある。(常に偉そうとも言う。)


まぁあたしが相手をしていたのは氷帝レギュラー陣だけだったが、そんな俺様な部長に一癖もふた癖もある部員たちのおかげで(せいで)、あたしにはマネージャーとしてのスキルががそれなりに備えられてしまっているわけである。








...最高にいらねぇスキルだな。








そんなことを考えながら、昨日のうちに白石から預かっていた部室の鍵をつっこんで解錠。



ガラッ



『うっわ、きったな!!』


いや、想像はしてたけどな?
マネージャーのいない男子運動部。
散らかってるだろうなとは思ってたけど、これはやばい。
ダンベルや健康グッズ、お菓子なんかのゴミにアフロやちょんまげのヅラ、チェス盤や将棋盤、トランプやマンガなんかが置きっぱなしの床。



誰だ。
マンガを開きっぱなしで床に放置した不届き者は。
これじゃ汚れるし、開きグセがついてしまうじゃないか。


これだけは許せん、とマンガを拾っていたら発見したのはエロ本。


題名「巨乳天国」。



これの持ち主は1回豆腐の角に頭ぶつけて氏ねばいいんじゃないかな。
巨乳だけが全てじゃねぇ。


とりあえずエロ本は部室の真ん中にある机に目立つように置いておく。



氷帝の部室が綺麗だっただけに、ここはより一層酷く思えるな。




マネージャーとしては掃除をするべきなのかもしれんが、さすがにこれは掃除したくない。
てかこれはあいつらにやらせるべきことだ。
自己責任だ、自己責任。


とりあえず換気だけ、と窓を開けてあたしは洗濯をしに隅に積まれていた洗濯カゴに入ったタオルなんかを持って移動した。






AM6:20


洗濯機を回し、ドリンクを作っていたら外が騒がしくなってきた。
そろそろ部員たちが登校してきたらしい。

まったく。
人は6時から来て準備してるっつーのに。
家出たのなんて5時半だぞ。
朝起きたのなんて5時だ。
年寄りかよ。


出来上がったドリンクの味見をして、ドリンクの1つ(白石用)にカラシを入れたくなる衝動を必死に抑え、それらを1つのカゴに詰めてもう一つのカゴには乾いたタオルを積んでコートまで持っていく。



くそ重い。



しかもこれを約50人分だから往復しなくちゃいけない。




めんどくせぇ...。
やっぱ白石のになんか仕込んでやろうか。



「お、名前はやいな!」

「意外っスね。」

『おぉ忍足に財前か。おはよ。』


振り向いたら、忍足と財前が登校してきたところみたいだ。
舌打ちしたくなるわ。


『何、今来たわけ?スピードスター(笑)のくせに今とか、スピードスター返上しろや。』

「何やねん、不機嫌やな!ちゅーか(笑)て何や!!それに今日はたまたまや、たまたま!!いつもはもっと早いねんからな!!」

「謙也さん、朝からうるさいっスわ。」


ほんと財前の言う通りだわ。
まぁコイツの場合は従兄弟もうるさいからな、存在が。
だから仕方ないか。


「あらん、名前ちゃんおはようさん、早いわねん。」

『あ、小春ねーさんおはよ。あと一氏も。』

「付け足しみたいに言うなや!!ちゅーか小春のことねーさんて何や!!!」

『え、ダメだった?』


小春ちゃんよりも小春ねーさんのがしっくりくるんだけどな。
男だけど。
あと一氏は小春ねーさんに付いてくるオマケだろ。


「全然かまへんよ一氏は黙っとらんかい!!」

「小春ぅ...。」


小春ねーさんの一氏に対して豹変するとこまじツボだわwww



『てかお前ら5分前だから。さっさと部室行って着替えてこい。』


時計を確認するともう25分だ。
あたしもさっさと運ばねぇとな。



『ん?』


コートの方に再び向かおうと思ったら、急に右側が軽くなった。
それもドリンクを詰めた重いほう。



『ぅげ!!』

「うげって何やねん!それにしても朝から準備してもろておおきにな。」



右側にいて、ドリンクの入ったカゴを持っていたのは白石だった。
しかもそのままコートに運ぼうとしている。


『は?ちょ、何やってんの?』

「何て、これ運ぶんやけど。」


運ぶ?
お前部長だろ?
部長はそんなことしねぇだろ?


「何やねん、俺が運んだらおかしいんか?」

『おかしい。』


即答だ。
だってあたしが今まで見てきた《部長》は、そんなことしなかった。


「おかしいて...。部長なんやから、率先して手伝うんは当たり前やろ?」

『え、部長だから偉そうにふんぞり返ってるもんだろ?』

「え?」

『あ?』








............。







なんだろう、この《部長》という単語に対する認識の違い。




そのとき、先ほど忍足たちが入って行った部室の扉が大きな音をたてて開き、誰かが飛び出してきた。



「謙也!!そない乱暴にしたらドア壊れてまうやろが!!!」

「し、白石!?スマン!!!...じゃなくて名前!!!!!」

『は?何?』



顔を真っ赤にした忍足が焦ったように近付いてくる。

何だ?



「朝、部室の鍵開けたん名前?」

『あ?そうだけど?』


それが何だというんだ。


『白石に鍵預かったんだけど。なんか問題あった?』

「いや問題っちゅーか、なんちゅーかゴニョゴニョ......。」

「なんやねん、ゴニョゴニョ言うて。はっきり言えや。」


白石も何かあったのかと忍足に聞くが、忍足はあたしをチラチラ見てはゴニョゴニョ言うの繰り返しだ。
ホントに何なんだコイツは。












『あ。』

「!!」

「名前?」













わかった。
だとすれば忍足のこの態度にも納得する。





『あれだろ。部室にあった巨乳天g「うわぁぁぁぁ!!!何言うてんねん!!!エロ本の題とか言うなや!!!!」......お前が大声でエロ本言うのはいいのかよ。』


うわぁぁあぁぁああぁぁ!!俺は何言うてんねん!!!と、再び絶叫する忍足。

うるさい。


『まぁ落ち着けよ、忍足。お前が巨乳趣味だったと周りにバレたところで恥ずかがることはないさ。お前の従兄弟も脚フェチだしな。人それぞれだって。』

「ちゃうねん!!侑士は脚フェチやけど、俺はちゃうねん!!アレだって先輩が部室に置きっぱにしたので俺のじゃ「謙也。」ヒィッ!!」


必死に否定する忍足に、あたしを押しのけて白石が立ちはだかる。
チラっと盗み見た顔は笑顔だったが、目が笑ってなかった。


「ちょおどういうことか説明してもらおか?」

「いや、白石あんな、」

「言い訳は聞かへんで!!!エロ本て何やねん!!そもそも俺は部室掃除しろてなんべんも言うてるのに.....................。」















長くなりそうだったので、あたしはドリンクとタオルを持ってその場を後にしたのであった。



悪いな忍足。
お前がここまで取り乱すとは思ってなかったんだ。


そしてその日の朝練でレギュラー陣が部室掃除をやらされたのは言うまでもない。

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