短編
□ひやかしお断り!
1ページ/1ページ
それは本当にたまたまだった。
たまたま出かけた腐れ縁のレストランで、目に入ったのは奥の個室にはいっていく何人もの男女だった。
「おい、髭。今日なんかパーティでもあるのか?」
「うん?」
メニューを持ってきた腐れ縁に聞くとちらっと奥をみて笑った。
「ああ、今日婚活パーティがあるんだよ。」
「婚活パーティ?」
「そ、結婚したいけど出会いがない男女の為の出会う為のパーティってこと。」
「へぇ。」
その時の俺はまったく興味を持たなかった。
それどころかわざわざこんなことをしないと出会いも得られないやつ等に哀れみさえも覚えた。
「まあ、ちょっとうるさいかもしれないけどゆっくりしてけよ。忙しいから相手もできないけど。」
「誰が話相手しろっていたよ!てめぇは仕事してろ!」
わざとらしく言う腐れ縁の締まりのない顔をにらみ、運ばれてきた料理を食べ始めた。
そうして食べている最中、あいつは現れたんだ。
カランカランと鳴るドアに振り返った俺の目はその姿にくぎづけになった。
艶々の短い黒髪が軽く顔に張り付き、走ってきたのがわかる様子で息切れをしながら掃いてきたあいつは店員たちに案内され店の奥にと案内された。
俺の座っている席のすぐ近くを通ったその瞬間嗅いだその汗のにおいは今でも印象に残っている。
一瞬だけ近くでみたその瞳は黒曜石のように黒く、一瞬みただけでは未成年にも見えるその体格は日本人ではない俺からすれば折れそうに見えるぐらい細いだが、どこかしっかりとしているようにも見えた。
また入ってきたときは分からなかったが、席の間をすりぬけるその身のこなしは気品が見え母国でみたフットマンの動きを連想させた。
(男・・・ってことはないか、体臭がなさすぎる。)
西洋生まれの自分からすればアジア系は性別も年齢も分かりにくい、とくに日本人は身長も小柄で男とも女ともわからない容姿をしてるものが多い。
いま通り過ぎた人物も白いパンツに薄いピンクのシャツだった。
(男物着る女も多いしな。)
どっちとも言えない見た目をしているのに、更に日本人は服装も似せてくる。
女ものかと思うぐらい派手な色使いのものや身体の線をワザと見せてるのかと思うもの、子供用かと思うぐらい可愛らしい服を男もきている。
かと思えば男物じゃないのかと聞きたくなるようなデザインの服装を女が着ていて、サイズがあっていなかったりもする。
(わっかりにくいんだよな。)
日本人たちはそんなの気にしないのだが、国外に出れば日本人は殆どすぐに日本人とわかる。
そんなことを考えながらもその人物の背中から目を離せずに、俺は相手が店の奥に消えるまでみつめていた。
(奥か、待ち合わせか?)
走ってきたのは遅れたからかと考えたところではっと思いだした。
(そういえばさっきパーティがどうたら・・。)
聞き流していたはずの情報が頭を駆け巡る。
(出会いパーティって言ったよな。あいつまさかその参加者か!?)
その結論にいきついた俺の心は不安と混乱に埋め尽くされた。
(あんな奴が相手をそんなので探してる!?なんだよ、あいつの周りの野郎は節穴だらけか!?こんなことまでしないと相手がいないなら俺が!!ってか俺以外いないだろ!!)
自分でも思考がむちゃくちゃなのはわかっていたが俺の頭のなかには盗られるとか、盗られたくないとかありえないとかその言葉ばかりがぐるぐる回っていた。
そう俺はさっきの人物に人生初の一目ぼれをしてしまったのだ。
そう相手は結婚したがっているんだ。
なら俺と結婚すればいい、俺は外資系企業の重役だ結婚しても金に不自由はさせない。
まあ仕事がしたいというなら止めることはできないが、なるべくなら家にいてほしい。
そうだな、家でガーデニングや刺繍をしてくれればそれでいい。
休日には二人でティーパーティをして植物園に行ったりもしよう。
その時はもう少し女らしい格好もみたい。
さっきチラッと見えた婚活パーティの参加者はどっちかっていうといかにも探しに来ているって感じだった。
そんな中にパンツ姿ってのも俺としては悪くないんだけど、二人きりのときはもう少し女らしいのもみたい。
そうか、あいつきっと男兄弟の生まれで兄の格好をまねてたとかだな。
それならわかる、ちょっと女らしくないのものそのせいだな。
なら俺と結婚して奥さんになれば少しずつ変わるだろ。
装飾が派手な女はもう飽きたし、やっぱり清楚系がいいよな。
シンプルなワンピースでいてくればいい。
いや、いっそ和服もいいよな。
あの顔立ちならさぞ似合うだろ。
決まったな、あとは出会い方か。
ここを通ったときに声をかければ・・・いやまてよ。
出会いがしらにそんなこと言ったら警戒されるか、異性に意外に警戒心があるのが日本人だからな。
なら俺もパーティに参加すれば・・・。
「そろそろデザートって思ったのにお前全然食べてないじゃんどうしたんだよ!?」
不意に声をかけられ顔をあげれば目の前に不思議をそうな顔をしたフランシスがいた。
「フランシス!俺、婚活する!」
「はぁ!?」
その時聞いた腐れ縁の声はかつてないほど大きかった気がする。