季節夢

□Halloween2015
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「た、たすけっ…誰か助けて…っ!」


世間が仮装をして甘い御菓子を食べている中、私は六つ子から逃げるように広い街中を走り回っている。かれこれ30分は経っただろうか。喉はカラカラに渇いて、急激な運動に脚は悲鳴を上げている。それもこれも、チャイムが鳴った時に誰が来たかを確認しないで、軽率に扉を開いてしまった所為だ。扉を開いた瞬間、各々に仮装をした六つ子はトリックオアトリートと連呼し続けた。御菓子は当日買えばいいや、なんて思っていた私は、考えが甘かったと頭を抱えた。まさかこのニート達が朝の八時に家へ訪問するとは考えていなかったのだ。
それからは、御菓子を持たない私を見て、面白い玩具を見つけたと云わんばかりの表情でじりじりと距離を詰めていく彼等に、私はその場から逃げ出した。出掛けようと思っていたため服は着替えていたのだが、スッピンであることには後悔してる。そんな出来事があって、私は現在絶賛逃亡中の身だ。捕まったら多分やばい。


「みぃつけた!」
「ひいっ…お、おそ松くん…!」
「違うよ**ちゃん、僕はトド松」

走っている間に一度も彼等の姿を見ておらず、安堵して休んでいたのも束の間。肩をぽんっと叩かれる感触を感じると、私の後ろに満面の笑みをした末っ子が立っていた。

「あの、トド松くんは何もしないよね…?」
「どうしようかなぁ、僕おそ松さんと間違えられてショックだったし」
「みんな顔一緒なんだし仕方ないじゃん!」
「あ、そういうこと言うー」

顔を膨らませて顔を近付けてくるが、距離について全く考えないのだろうか。ほんの少し動けば、唇が付きそうな程に私と彼の距離は狭まっていた。

「ち、近いです、トド松さん」
「**ちゃんが一番最初に会ったのって僕?」
「そうです…」
「んー、それじゃあ」

はいこれ、と言われて強く手のひらを掴まれると、キラキラと光る包装紙に包まれた五つのキャンディーを握らされる。

「この後兄さん達に捕まって、あんなことやこんなことされる**ちゃんは見たくないしね」
「え、私捕まったらそんなことされちゃうの」
「だからこれ、僕からのハロウィン!」

御守りだよ、と言って末っ子は去っていく。もしかして、これで自分の身を守れということだろうか。女子力の高さを感じるパッケージに浸っていると、遠くから聞き覚えのある二つの声が聞こえた。

「**発見」
「**だーーーー!!」
「十四松行ってこい」
「へい!!」

雄叫びを上げながら此方へ走ってくる十四松くんの勢いに圧され、そこそこあった筈の距離を直ぐに縮められてしまう。そして、勢いで突進してきた彼はブレーキを効かせられずに、そのまま私へと激突する。

「**ーーーー!!」
「うっ」
「十四松、**がしぬ」
「え!?**しんだ!?」

思い切りコンクリートに押し倒された私が身体を起こすと、一人は大声を出して喜び、一人はゾンビ**と失礼な事を宣う。人を勝手に殺さないで欲しい。

「トリックオアトリート」
「とりっくおあとりーと!!」
「もう私の身体ボロボロなんだけど。これ以上私から何を取るつもりなの」
「無いんだったら…」
「ありますあります!はいどうぞ!」

紫色と黄色の装飾をされた二つの飴を差し出せば、彼等の表情が一段階明るくなり、また直ぐ様暗い表情となる。弟の方に理由を訊ねれば、御菓子を貰えなければ私と野球をやれると思っていた様だ。そんな事なら何時でも相手になるのになぁ。兄の方には怖くて聞くことが出来ない。
御菓子を貰って機嫌の良くなった二人と別れを告げ、一人になった私はゆっくりと歩き出す。しかし、少し歩き出した所で先程コンクリートにより痛めた身体が悲鳴をあげる。身体が傾くのを感じて目を閉じた瞬間、誰かに支えられる気がした。

「**ちゃん大丈夫!?」
「ごめんなさい、ぼーっとして……え、あ…えーっと、」
「チョロ松」
「あっチョロ松くん…ごめんね」
「いや、僕達の方こそごめん。まさか逃げられるとは思ってなくて、それよりも身体どうしたの?大丈夫?」
「ちょっとふらついちゃっただけだから大丈夫だよ、ありがとう」
「どういたしまして」

今日はじめてまともな会話をした事が嬉しくなり、顔を見合わせて笑う。私の安否を確認しに来たという彼は、取り合えず元気な私に安心したようで(ぼろぼろだけど)、午後からは仕事を探しに行くという。もう少し常識人な彼と話していたいが、就活の邪魔はしたくない。頑張れの印として、緑色の包装が為された飴を取り出して彼に渡す。

「就活がんばってね」
「え、良いの?」
「うん、トド松君に貰ったやつだけど、後でハロウィン用のお菓子は持っていくから」
「あ、ありがとう」

頬を紅らめて飴を見つめる姿が何だか可愛くて、胸がほっこりと温かい気持ちになる。元はトド松くんがくれた物だというのに、その飴一つで頑張ると言ってくれた彼を見送り、姿が見えなくなった所で私はまた歩き出す。

「追いかけて、ようやく見つけたぜマイハニー」

歩き出す。

「ま、待てよ**!」
「どなたでしょうか」
「君の瞳に映ってしまった罪な男さ…

ごめんなさい無視しないで下さい」

ポーズを取って病気全開の彼を無視して歩き続けると、遂には街中で土下座をしそうになったため、急いで止めに入る。痛い格好だけでも恥ずかしいが、土下座されるのも周りの視線が痛い。もう良い年なんだからこんな事で泣かないで欲しいと伝えれば更に泣くから、御機嫌取りに青色の包装をした飴を手渡す。

「**っ…!」
「機嫌なおった?」
「やっぱり…**は俺の事が、

ごめんなさい調子に乗りました」

飴をあげたことで元気を取り戻したカラ松くんに、今度こそは反応しないで歩く。多分また泣いているんだろうなぁ、と思うけれど、後の事は他の兄弟に任せようと思う。再度歩き出すと、今度は六つ子ではない珍しい人物と遭遇した。

「イヤミさんこんにちは」
「ああ、**ザンスか。何か凄いぼろぼろザンスね」
「まぁ色々とありまして…」
「それより今日はハロウィンザンス!ミーも初心に戻って、今年は仮装しようと思ってるザンスよ」
「へー、じゃあお菓子も貰わなきゃですね」
「そうザンスねぇ、今年のお菓子第一号は**から貰ってあげるザンス」

トリックオアトリートとにこやかに言われれば、最後となる飴も自然と渡してしまう。一番やばい人から自分を守る砦だけれど、おそ松くんには遭遇しないように直ぐ帰れば良いんだ。

「**ー!トリックオアトリートー!」
「っ…!イヤミさんさっきの飴やっぱり返して!」
「い、いきなり何ザンスか!嫌ザンスよ」
「**も何もないから逃げたんだろ?お菓子くれないと悪戯するぞ!」
「いやっ、悪魔がいる…!」

会うつもりのなかったおそ松くんが急に現れて、じりじりと距離を詰めてくる彼とは対象に私は距離を図る。やばい。本当にやばい。折角トド松くんがチャンスを与えてくれたのに、此れではハロウィンという一日がおそ松くんに構うことで終えてしまうだろう。今まで何とか切り抜けてきたというのに、最後の最後でこんな結末になるのは嫌だと思い、私はポケットの中にある携帯で援護を呼ぼうとした。

「あ、れ」
「はっはっは、やっぱり**は俺といる運命だな!覚悟を決めろ!」
「おそ松くん…………これどうぞ!」
「え、」

ポケットを漁ると、携帯とともにガムが入っていた。私は最近食べていないから何時のものかは判りかねるが、御菓子は御菓子だ。兎に角、私は持てる限りの力をおそ松くんの前に差し出した。

「これで、オッケーだよね」
「ああああ何でだよ!」
「神様が私の味方をしてくれたんだ…」

ありがとう神様、と何処の神に感謝していると、おそ松くんは自棄になって私からガムを奪い取って口へ含む。あ、でも何だかんだで美味しいみたいだ。

「後でお菓子いっぱい買ってくるから。皆で家で待ってて、皆でハロウィンパーティーしよ」

ぶーぶー項垂れている彼を励ますように言うと、先程までの態度が何の事やら、明るさを取り戻して家へと帰っていった。
私の横では未だぽかんとして突っ立っているイヤミさんが居るが、チビ太くんやトト子ちゃん、皆を呼んでパーティーをしよう。



「Happy Halloween!」



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