季節夢

□Good couple2015
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※幼馴染み。


「誰が**ちゃんの夫になれるか」
「ふっ…悪いが俺だな」
「いや、皆に任せられないし。将来のこと考えたら僕でしょ」
「は、何言ってんの」
「おれ**のこと好きーーー!!」
「僕が一番幸せに出来るよ」

円を描くように座る六人は、話題の中心となる人物が居るにも関わらず、無視して話を進める。今日は11月22日。世間では語呂合わせから良い夫婦の日、と言うらしい。しかし、未婚の私には関係の無いことであり、特に何をしようという事もなかった。だが、同じく未婚の六つ子達にとっては、そうではなかったようだ。

「**ちゃん」
「何」
「この中で誰と結婚したい?」

いや、貴方達全員とも無職じゃない。心の中では悪態をついても、目を光らせて私を見る六つ子に反応してしまうのは、長年身体に染み付いた癖なのだろう。この人達は、私が答えるまでは何があっても離す気がないことは分かっている。

「うーん、チョロ松かなぁ」
「えー!何でチョロ松なんだよ!」
「そうだよ!チョロ松兄さんは真面目系クズだから達悪いよ!」
「お前ら言いたいことばかり言いやがって…」

唯一まともな人の名前を挙げれば、兄弟達はぶーぶーと不満を洩らす。とは言え、誰を挙げても文句は出るだろうから仕方が無いと、私は別の案を出した。

「じゃあ、一人ずつアピールしてよ」
「アピール?」
「ああ…あの悪夢を思い出す…」
「やめろ。あれは夢だ、夢だったんだ」
「へへっ、僕アピールなら得意だから任せてよ」

頭にはてなマークを浮かべる者や、過去の出来事を思い出して青くなる者が居る中、自信満々な顔をした一人が手を挙げた。そして彼は立ち上がり、私の所へとやってくる。

「僕、松野トド松は**ちゃんと幸せになりたいです。でも、僕にとっての幸せは**ちゃんの幸せだから、他に好きな人がいるのなら僕は潔く諦めます。僕はずっと**ちゃんに笑顔でいてもらいたいです」
「合格」
「出たよ末っ子モンスター!」
「ちっくしょーまたやられた!」
「待て!俺も**を愛してる…だが、俺はお前を離しはしないぜ」
「はい次の人」

あざとく上目使いをし、涙目で訴えかけて合格を貰うトド松に、残る兄弟はしてやられたという顔を見せる(若干一名は違ったけれど)。しかし、末っ子に負けてはいられないと思う兄達は、次々に手を挙げていく。

「おそ松です。俺は**ちゃんと結婚したら性的に満足させてあげることが出来ます」
「お前最低か!」
「それに、俺は**ちゃんが世界で一番好きだし、**ちゃんのためだったら就職だって苦じゃない。俺、**ちゃんが本当に好きなんだ」
「おそ松…」
「**ちゃん!騙されないで!」
「合格」
「やったー!」

出始めに最低な事を言うものの、真剣な目で私を見つめるおそ松に胸のときめきを奪われる。横からはチョロ松が何か言っている気がしたが、私の口からは、合格の文字が自然に出ていた。

「次俺」
「あ、じゃあ一松」
「俺は多分、**が死ねって言うなら死ねると思う」
「えっ」
「焼身とか一番苦しみを伴う行為らしいけど、**が望むんだったら」
「ちょちょちょっと待って!」
「まぁその時には**も一緒に連れてくけど」
「合格!合格です!」

命を出されては堪らない。しかも、私まで殺される。自分の発言に引いている兄弟のことも露知らず、危険な方向へ考えを滑らせていく一松に合格の印を出せば、彼は満足そうに口を閉ざした。怖い。

「はーーーい!!つぎ俺!!」
「どうぞ」
「俺**が好き!!毎日一緒にいたい!!好き!!」
「うん、可愛いから合格」
「待て!俺も**が好きだ!毎日離しはしないぜ…」
「はい、次の人」

勢い良く腕を降る十四松は、自分の番を待っていましたと言うかの様に、大きな声で愛を叫ぶ。他の皆のように結婚を意識しているかは分からないが、明るさを忘れない彼にほのぼのとした気持ちになった。もう一人の方は知らない。

「じゃあ、最後になったけど俺も良い?」
「うん、どうぞチョロ松」
「えっと、お、俺もその、」
「うん」
「**ちゃんの作った味噌汁を毎日飲みたいです!」

至って真面目に言った彼の台詞に、兄弟達はぷっと吹き出す。笑われていることに気付いたチョロ松は、自分のベタな言葉に今更恥ずかしさを感じているようだが、あの恥ずかしがり屋なチョロ松が言ったことを嬉しく思い、私は合格を出した。

「みっそっしる!!みっそっしる!!」
「これで全員合格かぁ」
「カラ松兄さんだけ不合格だけどね」
「…ぐすっ」
「カ、カラ松、分かった!良いよ合格で!」
「ほ、んとか…?」
「うん本当」
「みっそっしる!!みっそっしる!!」

部屋の角隅で体育座りをして涙を流していたカラ松に、少しだけ不憫な気持ちになった。名前を呼んでも反応しない彼の肩を叩いて合格を出してあげれば、**ちゃん、と昔の呼び方に戻って私に抱き着いた。そして、全員に合格が出されて一段落着いたところで、漸く何時もの雰囲気が戻ってきた。

「ま、今はまだ、**ちゃんの夫の座は御預けだな」
「僕達が就職してからだね」
「みっそっしる!!みっそっしる!!」
「…」
「おれぇっ、ぜったい**ちゃんと結婚するっ…!」
「とりあえず鼻かみなよカラ松兄さん」

将来は俺こそが**ちゃんの夫だ、と意気込む六人を眺めながら、懐かしさを感じた。確か、昔もこんなことがあったなぁ。私は目を瞑り、明るく照らす未来を想像した。



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