□ピーマン
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「無理。無理無理無理無理」
「食べる前から何言ってんの。ほら」
「ちょ、**やめて、お兄ちゃん泣きそう」

昔からピーマンが嫌いだというおそ松に、私は力の限りを振り絞ってピーマン料理を沢山作った。青椒肉絲にピーマンの肉詰め、ピーマンと竹輪の炒め物にピーマンきんぴらなど。別に、嫌がらせをしたいわけではない。良い年して働かない彼に、一つでも大人になってもらおうと考えて作ったのである。
それがまさか、青椒肉絲を口の近くに持っていくだけで、涙目に成る程嫌だとは予想もしていなかった。

「世の中、したくないことはしなくて良い。食べたくないものは食べなくて良いんだよ」
「ばか。そんなんだからいつまで経っても就職決まらないんでしょ」
「良いんだって。俺は人間国宝になるんだから」
「本っ当に、バカ言ってないで少しは大人になりなさいよ」

喋っている間にも、どうにかして口に入れてやろうかと構えるが、こういうときのおそ松は強い。右に構えれば左に避け、左に構えれば右に避ける。人の嫌いなものへの反応は、これ程までとは…。
大量のピーマン料理を作ったものの、対象者が食べなければ仕様がない。おそ松との避けゲーに疲れた私は、箸で掴んでいる青椒肉絲を口に含んだ。我ながら、こんなに美味しいのに食べないなんて人生損してると思う。

「あー美味しい」
「なぁ、」
「何」
「やっぱ、食わせて」

私が食べる姿をじっと見てたおそ松が、今度は自分が食べると言い出した。人が食べている姿を見て促されたのだろうか。とにもかくにも、一生懸命作った料理を食べたいと言ってくれたことに喜びを覚え、にこにこと笑いながら、私が食べた箸でおそ松の口に青椒肉絲を持っていった。

「、まっず」
「ふざけんな」
「だって**…さっきよりピーマン多くなってた」
「時間掛かったお仕置き」
「お仕置きって響き、なんか良いな」
「変態ニート」

虚ろになったおそ松に、酷い毒を吐くものの、妄想モードに入ったのか耳に届いていなかった。彼がこちらの世界に戻ってくるまでの間、仕方なく、机に並ぶ大量のピーマン料理を食べることにした。このピーマンの肉詰め美味しい。私はもしかしたら天才なのかもしれない。

「あ、俺も」
「まだ食べるの?」
「一口だけな」

箸で一口大に切り、彼の口へ運ぶ。口にいれた瞬間、顔が青くなっていたけれど、見てみぬふりをした。そろそろ可哀想になってきて、残りは彼の弟たちの夕食にしようと思い、ラップをかけようと席を立ち上がろうとした。

「待った。まだ食うから」
「え、本当に言ってる?」
「おう。だから、**早く食えよ」

先程まで使っていた私の箸を奪い取り、今度はおそ松が私の口にピーマンを運ぶ。何だかよく分からないけど、拒否する理由もなくそのまま頂く。そして、今度はその箸で自分の口にピーマンを運ぶ。

「俺、間接キスなら、食えるっぽい」



その言葉を聞いた私が、1ヶ月間ピーマン料理を作り続けたせいで、おそ松が更にピーマン嫌いになったのは別のはなし。



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