□推しメン
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人が複数人揃った場合、人はその中でお気に入りを見つけようとする。それは特定の人物を好きになったり、応援したりするものである。主にはアイドルやアニメキャラクターの中から一押しする人物を、「推しメン」と言うらしい。最近では大学のサークル等でも使われるようだ。其処までくると、末恐ろしいと思う。

母親の胎内の中に居た頃から一緒で、小さい頃には見分けの付かなかった彼らも成長し、大人となった。昔とは異なり、少しずつ見分けが付くようになった今では、幾ら似た見た目と言えど、異性から好かれる、好かれないは、はっきりと表面上に表れているのだ。特に、六つ子の末っ子に関しては、兄達に甘やかされてきた為に甘え上手な男性へと成長し、彼女という存在が在りながらも、女の子と遊ぶ日々が続いている。

「何で**の推しメンは僕じゃないの?」
「そういう所」
「えーだって、あんな兄さん達に負けるなんて僕のプライドが許さないんだけど」

目をうるうるさせて上目遣いをしながら聞いてきたのに、自分の兄のことを思い出すと表情が変化する。ほら、周りの空気が黒いよ。さっきまでのあざとさはどうした。

「私の推しメンがトド松のお兄さんでごめんね」
「僕も**の推しメンになりたい」
「トド松は大好きだよ」
「じゃあ、」
「でも、推しメンではないかな」

何だよ!と叫ぶと、彼は体育座りをしながら携帯を弄り出した。画面には、私の知らない女の子達の名前が羅列している。話している内容はどうあれ、彼女と二人きりで居るのに他の女の子と連絡を取るのは如何なものかと、今にも通話ボタンを押しそうなトド松の携帯を取り上げた。

「**だって、推しメンな兄さんと電話すれば良いじゃん。ていうかこの家に居るし。僕は僕を推しメンって言ってくれる女の子と遊ぶから良いもん」
「ばか」
「いてっ」

拗ねるトド松の無防備な額に、中指で攻撃をする。あ、私もちょっと痛い。可愛らしく両手で額を押さえる彼の胸に、今度は思い切り飛び込む。両手が額にあった彼は、バランスを保てずに其のまま後ろへと雪崩れ込んだ。

「もう**、次から次に痛いよ」
「ねぇトド松」
「何?」

一つ頭上の上に居る彼は、やっぱり優しい。急に飛び込んだ私を心配するように、私の頭を撫でる。本当は、自分の方が痛いだろうに。

「あのね、私の推しメンは、確かにトド松じゃないです」
「そんな改まって言わなくても」
「でも、私の愛している人は、トド松だけです」

ぽかんとした顔で手を止める彼の顔を見ていたら、何だか急に我に戻って恥ずかしくなり、もう一度、彼の胸に顔を埋めた。しかし、その様子を見たトド松は頭を撫でる手を再開し、にっこりと笑う。

「僕も、**のこと愛してるよ」

えへへ、なんて笑う彼の声を聞いて、これで一件落着だと思った。頭の中では、どの様にして携帯の中から女の子の名前を消させるか悩んでいると、頭上に居るトド松が、でもやっぱり僕が推しメンじゃないと嫌だなぁ、なんて言うもんだから、私の苦労は絶えないのだ。



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