□お邪魔虫
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※六男視点



「遊園地なんて久しぶりだなぁ、楽しみだね」
「そうだね。**ちゃんと来られるなんて嬉しいな」
「あはは、出たなチャラ男ー」

今日は**ちゃんとはじめての遊園地デート。知ったら邪魔してくるのは目に見えているから兄さん達には秘密だけど、楽しみ過ぎて昨日の夜はあまり眠れなかった。元々女子力が高いなんて言われている僕だけど、何時ものデートより動きやすくてお洒落な格好をする為に今日は30分位悩んだ気がする。待ち合わせにはギリギリで着いてしまったけれど、それだけ楽しみであるということだ。

「私、ジェットコースター乗りたい」
「いきなり?」
「うーん、でも混んでるならメリーゴーランドにしようかな」
「はじめだし、そうしよっか」

着いて早々、チケットを購入してアトラクションへと移動する。小さい子どもの様に楽しそうに笑う彼女の顔を見ていると、僕もつられて笑顔になる。今日はくたくたになるまで楽しむぞ、と息込んでガッツポーズをして目線を園内へと外したその瞬間、僕は有り得ないものを目にしてしまった。

「っ…!?」
「どうかしたの」
「な、何でもないよ」
「変なトド松くん」

僕の異変に気付いた彼女に、慌てて弁解をしたものの、変になるのも仕方がない。僕の目の先には、家に居る筈のクズ五人が歩いていたのだ。しかも目があった瞬間、彼等はにやりと笑った。此れは、僕がデートだと知って邪魔しに来たとしか思えない。今日のプランは変更だ。彼らの存在を彼女に気付かれず、且つ邪魔されるのを防がなければ。

「**ちゃん早く行こう」
「メリーゴーランドは逃げないよー」

彼女の手を引いて、メリーゴーランドがある場所へと辿り着く。よし、馬鹿達は着いて来ていないな。ほっと安堵の胸を撫で下ろし、僕らは隣同士の馬に跨がる。馬と**ちゃんも可愛いな、なんて思っているとそれが言葉に出ていた様で、**ちゃんは少しだけ顔を赤らめながら視線を背けてしまった。そんな反応も可愛い。僕が彼女の姿ににやけていると、何時の間にかメリーゴーランドには人が増え、入口には男だらけの集団が列を作っていた。

「チケット拝見します」
「いやっほー!遊園地!」
「いやっほーーー!!メリーゴーランド!!」
「お前ら少し落ち着け!」
「白馬と俺…あまりの美しさに見ている女性の心を射止めてしまうな」
「うざ」
「あ、あの、チケットを…」

「? なんか騒いでるね」
「そそそうだね!それよりも一緒に写真撮ろうよ」

まさかと思っていたが、列を作り係員に迷惑を掛けていたのは奴等だった。折角撒いた筈なのに、何故此所に居るんだ。スマホで写真を撮る際に、ちらっと彼等に目を向ければ五人全員で憎たらしい笑顔を見せる。ちくしょう、何なんだよ。

メリーゴーランドに乗ってからは、僕達の周りが余り空いていない為か、五人は僕らの反対側の馬に乗っていた。しかし、ギャーギャーと騒いでいる声を聞くだけで、僕の胃はキリキリと痛んで楽しむどころではなかった。そして、乗車を終えると彼女が行きたいと言っていたジェットコースターへと向かうが、奴等を撒くように遠回りをしながら走る。少し息は切れたものの、今度こそは上手く撒いたようだ。乗り場に着くと、先程に比べて人が多く並んでいたが、彼女と話していると時間があっという間に経ち、係員に席の案内をされる。

「きゃー楽しみ!」
「怖かったら僕の手握って良いよ」
「えー、どうしよっかなぁ」

ほんわかした空気の中、コースターが出発した。此処は頂上に着く寸前に写真撮影が有る為、僕らはピースの姿勢を取りながら落下する。**ちゃんは笑ってるけど、正直僕は怖い。

コースターに乗り終えると、直ぐ様荷物を持って写真を見に行く。数があって分かりにくいが、一巡して漸く、沢山の中から僕達が写る写真を見付ける。一枚につき六席分が写るのだが、其れには先頭の僕達をはじめ、後ろには他のカップルが、その後ろには六つ子の長男と次男が写り混んでいた。気付かなかっただけで、同じコースターに乗っていたってことだよね。しかも顔やばいし。二人とも世紀末みたいな顔してるよ。
まずい。非常にまずい。**ちゃんに見せられない。

「つ、次行こうか」
「ちょ、まだ見てないのに、」
「スマホで撮ったから大丈夫」
「早っ」

其でも未だ写真に未練がある**ちゃんに、アイスクリームを食べに行こうと誘えば、甘いもの好きな彼女はキラキラした目をしながら先導を切って歩み始めた。良かった、一応これでトラブル回避だ。

アイスクリームを食べた後、僕は不安を抱えながら園内のアトラクションをまわる。お化け屋敷では女装した兄弟が恋人同士の振りをして騒いでいたり(カラ松兄さんは一人外で待っていた)、パンダの着ぐるみを着てパンダカーに乗って歌い出したり(ラブコメ死ね死ね団って何処かで聞いたような)、昼御飯には同じ店を使う(その金は何処から来てる。僕はパチンコだけど)など、直接関わっては来ない分、幾度も精神的な邪魔をされた。はぁ、もう疲れた。空も薄闇が夜へと変わり、閉園のアナウンスが鳴ることで、漸く一日が終わったと今までの緊張が一気に緩んだ時だった。

「トド松くん、今日つまらなかった?」
「え、何で」
「何か変だったし、笑った顔が少なかったから」

少し悲しそうに眉を下げつつも笑顔を崩さない彼女に、僕はやってしまったと思った。今日の僕は兄弟のことを盾に、彼女の気持ちを考えない行動がかなり多かった。別の言い訳を言ったところで、恐らく嘘にしか聞こえず逆効果だろう。観念して本当のことを話すしかないと心に決め、僕は兄弟にデートの邪魔をされていたことを説明した。

「ふふ」
「ごめん」
「そんなことなら良かった」

**ちゃんは驚きつつも、笑いながら話を聞いてくれる。そんな彼女の顔をちらっと見ると、もう目には悲しい色が無くなっていた。

「また行こうね」

トド松くんが安心できるときに、なんて言う**ちゃんに愛しさが込み上げる。だけど、馬鹿な兄さん達への報復だけは絶対に忘れないように、しっかりと胸へ仕舞い込んだ。



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