□癒してあげる
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「あの上司まじ何なの!アホ!クソ!鼻くそ野郎!」
「女の子がそう言うこと言っちゃ駄目だよ」

ああもう、イライラする。
今日は仕事場でミスが発見された。私の管轄外の内容だったのだが、そのミスの原因は私の後輩に当たる人物にあった様で、後輩のミスは先輩のミスとして上司にこっ酷く怒られたのだ。社会人として仕事をしている以上は有り得ることだし仕方無いのだが、新卒の若くて可愛い後輩には優しく言う癖に、私には必要以上に怒りをぶちまける上司の愚痴を言うくらいは許して欲しい。

「月曜になったらあいつの靴に画鋲刺してやりたい」
「止めなよ、絶対悪いことしか起きないって」
「はぁ、」

怒りの丈を言葉にすると、先程の様な怒りは無くなってくる。いや、まだむかつくけどね。其よりも、定職にも就かずにのらりくらりと生きている目の前の人物に諭される事の方が腹が立ってきて、ニートとか女たらしとかクソギャンブラーとか、思い付く限りの悪口を彼にぶつける。

「良いよねトド松は。働かなくても生活できてるし」
「止めてよ僕に当たるの…それに、僕だってちゃんと仕事してるよ」
「嘘つけ」
「本当だってぇ」

そう言うと、彼は何処からか猫の耳が付いたカチューシャを取り出して自分の頭に嵌める。そして、**にゃん**にゃんと、猫の手で可愛く招くポーズをとる。

「え、なにこれ」
「何って、僕の仕事」
「意味わかんない」
「僕の仕事は**にゃんを癒すことだもん、にゃあ」

癒された?なんてあざとく頭を傾けるが、成人した男性が何をしてるんだと思い、溜め息を付く。そんな事している暇があるならハローワークなり行って貰いたいものだ。

「それじゃあお金稼げないでしょ」
「まぁ、僕はお金より**ちゃんの方が大切だから仕方ないね」
「トド松…」

胸が少しどきん、と高鳴るが、そのまま空気に呑み込まれそうになった所で我に戻りかける。しかし、我に戻ったらまた仕事仕事と言う私に危惧し、何も言わせまいとトド松は正面から私に抱きついた。


抱き付かれて数分が経ち、気が付いたら僅かに残っていた上司への怒りが消えていた。たとえあざとくてもお金にならなくても、一応仕事を成し遂げたという事にして、未だカチューシャの付いている彼の頭を優しく撫でてあげることにした。



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