□素直じゃない
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*リク



「昨日ね、おでん食べたくなって久し振りにチビ太くんのおでん屋に行ったんだよ」
「ふーん」

もや。

「あ、でもおそ松はよく行くんだったよね。今度一緒に行かない?」
「あーうん、今度な」

もやもや。

「…その雑誌おもしろい?」
「まぁまぁかな」

もやもやもや。

「ああもう!読むのやめてよ!」
「あ、それ返してくんない」



という訳で、おそ松の態度が余りにも素っ気ないという愚痴を、かれこれ一時間は溢している。はじめは女心を理解していそうなトド松くんに相談を持ち掛けたのだが、暇を持て余す兄弟達が次第に集まって行き、最終的にはおそ松を抜いた全員が私の目の前に座ることとなった。これだけ居ると、最初に話していたトド松くんが誰か分からなくなってしまう。

「大体、付き合って一年も経つのにキスもしてないってどういうことなの」
「**ちゃん、それって男の悩み…」
「しっ!チョロ松兄さん今はそういうこと言っちゃだめ!」
「愛には苦しみが伴う…」
「うるさい」
「キスーーーーー!!!」

同じ顔をしているのに見せる反応は全く異なり、段々と収拾がつかなくなる。しかし、彼等が自由であるが為に、私自身も普段では言えない悩みを言うことが出来る。それに、トド松くんとチョロ松くんは比較的相談らしい回答が返ってくるし、私の話をずっと聞いてくれるだけでもお金を払いたい位に有り難い。

「…っはぁー、話してたら喉が痛くなってきちゃった」
「あっ、お茶どうぞ」
「ありがとうチョロ松くん」
「でも、**ちゃんもこれだけ話せば少しは楽になったでしょ」
「うん、本当にありがとう。トド松くん、皆も」

チョロ松くんが注いでくれたお茶を啜ると、喉に凍みて心に落ち着きが出来る。はぁ、と一息付いた所で湯呑みを机に置くと、トド松くんがちょいちょいと可愛らしく手招きをして、視線を向ける。

「**ちゃんは心配性なんだね」
「だって、」
「でも心配しなくて大丈夫だよ。おそ松兄さんはちゃーんと、**ちゃんのことが大好きだから」

末っ子の彼がそう口にすると、他の兄弟達は其れを口切りにして普段のおそ松の様子を鬱憤を晴らすように語り出す。それは、デートから帰ってきたら**可愛い**可愛いと聞いてもない自慢をするものであったり、皆で恋愛ドラマを見ている最中に**に会いたい、と空気をぶち壊す発言をするものであった。はじめて知る情報ばかりで頭が追い付いていかない。普段ではあり得ないおそ松の言動の数々に、もしかして皆で私をからかっているのではないかと思った、その時だった。

「お前ら…」

扉を開けた先には、ぷるぷると震えて佇む姿をした、話の張本人となる人物が立っていた。しかし、弟達はそれに気付きながらも、火に油を注ぐかのように態度を変えずに話し続ける。其の態度に怒りを露にした彼の姿を確認して、弟達は漸く反応を見せる。

「あ、おそ松兄さん」
「おそ松兄さんお帰りー」
「帰ったか、血を分けた兄弟よ…」
「…逃げた方が良いんじゃないの」
「にげろーーーーー!!」
「おいてめぇら待て!」

ばたばたと足音を立ててその場から消える弟達に向けて、手を出さない代わりといった風に、規制音の掛かりそうな罵倒を言い放つ。彼等の声も遠退いてきた所で、はじめて部屋に二人きりになったことを理解する。やばい、少し気まずい。

「お、おかえり」
「…おう」
「…」
「…」
「…あの、さっき皆が言ってたことって、」

顔を見合わせずに黙り混む空気に耐えられなくなり、私から話を切り出す。しかし、彼はその場で立ち止まったまま動かない。あれ、と思い顔を覗き込もうとすると、くるりと此方を向く。あ、おそ松顔真っ赤。

「うるせ、ばーか!」

此方を向いたは良いものの、べーと舌を出して小学生みたいな事を言う。そして、先程の弟達のようにばたばたと足音を鳴らしながら消えていった。



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