□なぐさめる
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※リク。アニメ5話後のお話。



「もう、泣かないの」
「だってっ、だってっ…!」
「分かったから、ほら鼻水」

先程から目の前に居るパジャマ姿の彼は、鼻水をずぴずぴさせながら私に引っ付いている。訳を聞けば、海のど真ん中で誘拐され、彼の兄弟達には解放する代わりに身代金(ツケ代)を払うように言ったものの、何故か梨に負けたらしい。解放されたが心にも身体にも傷を負った彼は、行く所もなく私の家に来てこの様だ。

「俺だって、家族で」
「うん」
「あいつらっ…の兄弟で、」
「うん」
「ぐすっ梨もたべっ、たかった」
「う、うん」

彼の背中をぽんぽんと叩きながら、吐き出す想いを全て肯定的に受け止める。しかし、何時になっても泣き止まない彼に、どうしたもんかと頭を悩ませた。不憫には思うが、此のまま泣き続けられては明日の仕事に支障を来してしまう。何とか落ち着いて貰うために、今の私が出来ることをしなければならない。よし。

「一つだけ、カラ松のお願いを何でも聞いてあげる」
「ふっ…ぐすっ、え?」
「だから、もう泣かないで」

今の彼を泣き止ませる行動は分からない。考えても分からなければ、直接本人に聞けば良いという短絡的な考えで、私は交換条件を出した。すると魚が網に掛かった様に、彼は涙を止めて私の言葉に食い付く。

「な、なんでも…?」
「うん。だけど常識の範囲内でね」
「じゃあ俺を養ってください」

クズな考えのお願い事に、ぺしっと頭を軽く叩くと、彼はまた泣き出しそうになる。いや、無職のヒモを養うだなんて、幾ら事情があったとしてもお断りだ。別のお願い事はないのかと問い掛けると、先程とは別に、今度は言い難そうにもごもごと口を開く。

「…れ」
「え、何」
「…くれ」
「小さくて聞こえないよ」


「キ、スしてくれ」

普段もしている事なのに、唯一のお願い事がそれで良いのだろうか。しかし、はじめてキスをする女の子の様な目で訴えかけられ、私も言い出した手前、後に引けなくなる。縮こまる彼が可愛くて頬に唇を落とすと、ここじゃないと云うかの様に、涙で腫れた赤い目で私を睨み上げる。仕方無く今度は唇にキスを落とすと、彼は安心したのか、幸せそうな顔をしながら私の膝の上で滑らかに眠りに入った。



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