短編集

□おやすみ、私の愛し子
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 ハリー・ポッターという少年は、小さい頃から酷く理不尽な境遇の中にいた。

 ハリーに両親はおらず、彼を預かっているダーズリー家はハリーをぞんざいに扱った。
 ハリーはいつも一人ぼっちで、下ばかり見て生きていたけれど、
幼いながらに持っていた『泣き言を言ったら負けだ』という小さなプライドが、ハリーを辛うじて保たせていた。

 ーーだけど、それも限界だった。



 ある日、ダーズリー家のバーノンおじさんが、ハリーに手をあげた。

 きっかけは些細なことだった。
 ハリーが誤ってバーノンおじさんの服を汚してしまったのだ。

 バーノンおじさんは、そのまるまるとした頬を真っ赤にさせて怒り、怒鳴り、ハリーの頬を殴りつけた。
 それまで、バーノンおじさんは怒鳴ることはあっても、ハリーに手をあげることはなかったのに…。

 バーノンおじさんは、ハリーを引きずって階段下の小さな物置部屋に連れて行き、中に押し込め、ハリーが出られないように外から鍵をかけた。

 物置部屋の唯一の明かりである電球は一週間前ほどから切れていて、物置部屋の中は真っ暗だった。

 ハリーはその中で、自分の体を小さく丸めて、声を殺して泣いた。

 もう嫌だ。
 一人は寂しい。
 真っ暗が怖い。
 お父さん、お母さん。
 何で僕は一人なの?

 今までハリーが溜め込んできたそんな思いが、ハリーの中でグチャグチャになった。
 そのグチャグチャになったものが集まって、意志を持ち、そしてーー

 私が生まれた。
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