短編集

□生き残った【あの子】の秘密
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 ーー予想は、していた。

 この世界に、この身体を持って生まれ落ちた私にこの名前をつけたのは、もしかしたらパッドフットというあだ名を持つあの人なのかもしれない。…もしかしたらこの額にある稲妻マークの傷は、あのヘビのような顔をした人から私の1歳の時のハロウィーンの日に贈られたものなのかもしれない。

 …そう考え出した頃から、ずっと予想はしていたのだ。

 ただ、こんな予想、本当は当たってほしくなかったんだけど。



「(あー、やっぱりここってハリー・ポッターの世界なんだ)」


 暖炉から勢いよく吹き出していく何十枚、何百枚という枚数の手紙。
 それらの手紙は全て全く同じもので、この普通ならありえない異常事態に、意外にも私は落ち着いていた。対して、パニックになっているのは私を預かってくれている私のお母さんの姉妹の家族、ダーズリー一家である。

 その方々と、この部屋中に舞っている手紙の様子を眺めながら、後で掃除が大変そうだと私はそっと目を伏せ、ため息にもならない息を長く吐き出す。


「小僧!読むな、手紙は読むな!!さっさと部屋に戻れえええ!!!」

「はいはい、分かってるよ。読まないから落ち着いて」


 バーノンおじさんの腕と手を掴み、手紙に埋まりつつあるずんぐりとした体を引っ張り上げる。そうして何とかおじさんを手紙の海から救出した後、後ろからダドリーの悲鳴が聞こえて振り返れば、おじさんの小さいバージョンのような体のダドリーは、既に下半身が埋まっていて動けないようだった。

 ゼーゼーと肩で息をしているおじさんを置いて、私は顔に当たりそうになる手紙を両手で払いながら、半泣きでダドリーの腕を引っ張って救出しようとしているペチュニアおばさんの元へ進む。


「ペチュニアおばさん、手伝います」

「ダドリーちゃん!!直ぐにママが、助けてあげますからねえっっ!!!」


 …ダメだ。ダドリー救出に必死で私の声が全然聞こえてない。

 仕方がない、と私もダドリーの腕を掴み、よいしょっと引っ張る。


「ダドリー、大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃないよおおお!!ママぁ!!パパぁ!!ハリー助けてえええ!!死にたくないよおおお!!!」

「死にはしないから大丈夫だよ。ただ手紙で生き埋めになったら、少し息はし辛いだろうけど」

「うわああああん!!!」

「もう少しよ!!もう少しで助けてあげられるからねええ!!ダドリーちゃん頑張ってえええ!!!」


 バッサバサバサ、と今だに暖炉から噴き出し続ける手紙の音と、ペチュニアおばさんのとダドリーの喚き声と泣き声。

 ああ、これが日本でいう阿鼻叫喚っていうのかな。

 そんな事を呑気に考えながら、ふんっ!と掴んでいる腕を思いっきり引っ張れば、ズボッという音を立てて抜けたダドリー。しかし、ダドリーは勢いのままこちらに倒れこんできて、ペチュニアおばさんと一緒にダドリーの下敷きになってしまった。私の胸下ほどまである髪が巻き込まれて、頭を動かそうとすれば引っ張られてしまい地味に痛い。

 仰向けに倒れこんだ私の顔の上に、手紙が次々と降ってくる。その内の一枚を手に取って掲げてみれば、なにやら分厚く重い、黄色みがかった羊皮紙の封筒の宛先には、『サレー州 リトル・ウインジング プリペット通り4番地 階段下の物置内 ハリー・ポッター様』とエメラルド色のインクで書いてあった。切手は貼られていない。


「ひ…引っ越しだ……

今、直ぐに!!ここから引っ越するぞおおおおお!!!」


 地響きを起こせそうな、耳がバリバリと割れるようなバーノンおじさんの声を聞きながら、その封筒を裏返す。すると裏面には紋章入りの紫色の蝋で封印がしてあり、真ん中には大きく ''H'' と書かれ、そのまわりをライオン、鷲、アナグマ、ヘビが取り囲んでいた。

 今度こそため息をつきながら、私は手紙同士が擦れる音に紛れるように、但しそこに思いの丈を込めてボソリと呟く。


「勘弁してよ、ダンブルドアさん…」
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