minimum

□雨
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「もう本当に嫌だ…毎日、毎日、雨ばっかり」



もうすぐ短い時計の針が3を指す頃。
乱れたシーツの上に座って、肩からタオルケットを巻いた美穂が空を見ていた。
スウェットのズボンしか履いていない俺の上半身に、少しだけ冷えた風が当たって気持ち良かった。
さっきまでの行為が、俺達を汗ばませていた。
「はい」とペットボトルを渡すと「ありがと」と軽く微笑んだ。
その笑顔が儚くて、思わず背中から包むように抱きしめた。
シーツと同様、乱れた髪の毛を整えてあげる。
どれだけ求め合っても、どれだけ1つになれても、満たされないこともある。
この歳になれば、そんなことわかってるけど。
悔しくて、悲しい気持ちは消えない。



「大丈夫?」


「大丈夫だけどさ。雨は嫌い」


「そうじゃなくて。いろいろと、大丈夫?」



俺の問いかけに、美穂は黙り込んだ。
いろいろあると、雨は更に気持ちを沈ませていく。
どんなに悩んでいても、空が青く澄み渡っていると前向きになれたりもする。
それを俺自身も知ってるから…



「俺は雨、嫌いじゃないよ」


「そうなの?!初めて聞いた」


「だって、美穂との思い出に雨の日もあるから」


「それはそうだけど…」


「雨の日、一緒に買い物へ行った。雨の日、嫌だねって一緒に空を見上げた。雨の日、晴れた空を一緒によろこんだ」



俺の言葉を聞きながら、美穂がうつむいて目を拭った。



「抱え過ぎないで?少しは俺にも分けてくれないと。淋しいじゃん」


「充分、支えてもらってる」


「まだまだ足りないよ」



美穂の肩に顎を乗せて、雨の音を聞く。
いつか、この夜のことも俺と美穂の思い出に変わる。



「雨は、いつか必ず止むから」



美穂は、体を動かすと俺の胸に顔を埋めて思い切り泣いた。
泣いて、くれた。
たくさん泣いてね。
無理に前だけを見なくても大丈夫。
時には立ち止まって、うつむいて、うずくまって…
それで、いいんだよ。
でも、いつだって俺がいることを忘れないで?



たくさんたくさん泣いたら、虹がかかった青空のように笑ってね。



「もうすぐ、夏が来るよ」




 

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