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□君の好きなところ
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「ん?なに、どうした?」



ベッドに寝転がってボーッと天井を見ていると、隣から視線を感じた。
隣を見ると寝転がってテレビを見ていたはずの美穂が俺を見ている。



「綺麗な鼻だな、と思って」



「鼻?」と言って自分の鼻を親指と人差し指で掴む。
自分で言うのも変だけど、鼻が綺麗だと言われることは多い。



「自分では、ここがあんまり好きじゃない」


「あぁ…魔女っぽい感じの?」


「そう、ここが出てる」



鼻の上の辺りを人差し指で突くと、美穂が同じように突いた。



「女性は、そういう鼻の方が色っぽいらしいよ」


「へぇ〜。あ…でも、そうかも」



頭に浮かんだ女優さんを浮かべて納得した。
「誰を思い浮かべてるの?」と少し拗ねた美穂が横向きに俺を見る。



「美穂は自分の鼻、好きじゃないの?」


「う〜ん、もう少し高くなりたかった」


「でもさ、顔の中で鼻って重要性が低くない?目が大きくなりたい、とか。ぽってりした唇がいいとかは、よく聞くけど」


「うん、自分の鼻はどうでもいい。でも私、好きな人の鼻は気になるかも」



「今までの彼氏のも?」と言いかけて飲み込んだ。
つまらない質問な気がしたから。
そんな質問で、この居心地が良くて気持ちのいい時間を台無しにしたくない。



「美穂が気に入る鼻でよかった」


「鼻だけじゃないよ?智の目も、唇も、髪の毛も、指も…全部好き」



美穂の少し冷たい指先が俺の顎から耳にかけて、輪郭をなぞった。
耳に近づくと、くすぐったくて「ふふっ」と声が出る。



「俺が一番好きな美穂のパーツ、どこだと思う?」



「え〜!どこだろう?」



美穂は楽しそうに布団に包まると自分の鼻や唇に触れながら考えた。



「だといいな、って希望も含めて…目!」


「ぶっぶ〜!目も好きだけど、答えはココ!」



唇を指すと「そうなの?」と意外そうな声を出した。
「普通じゃない?」と唇を摘むと、その顔はアヒルみたいで愛しくなった。



「俺の唇と、美穂の唇が触れ合う瞬間が大好きだから」


「それはキスが好きって言うんじゃない?」


「でも、今までキスをしてこんなこと思ったことないから」


「私はキスをする時に鼻が触れ合うのが好き。智の鼻が私の鼻に触れるの」


「してみる?」



俺の問いに、美穂は恥ずかしそうに笑った。
唇を重ねると、確かに鼻が触れ合う。
当たり前のことなんだけど…そんな大切に感じたことなかったな。
角度を変えると、美穂の唇から熱い声が漏れた。
そのまま唇を耳に移しながら、片手でリモコンを掴んで適当にテレビを消す。
テレビを消すと枕元に置かれた電気スタンドの灯りだけになって、部屋がオレンジ色に染まった。



「待って…電気」



美穂が手を延ばして電気を消す。
一番、唇が好きって言うのは嘘かも知れない。
君の好きなところで“一番”なんて決められないから。



 

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