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□ピアス
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また。
今日、俺の部屋に来てから何度目の溜息だろう。
正直、一緒にいる時に溜息つかれるのはヘコむ。



「どうした?何か嫌なこと、あった?」


「うん…ちょっとね」


「何?話してみなよ」


「ピアスをね」


「ピアス?!」



予想外の言葉に思わず声が裏返った。
そんな俺をチラッと見て、美穂は憂鬱そうに言った。



「こっちのピアス、失くしちゃったの」


「俺が買ってあげたやつ?」


「ううん、自分で買ったやつなんだけどね」



そんなことか。
正直、そう思ってしまった。
美穂は、よくピアスを失くす。
失くすんだから、もっときちんと留まるタイプの付けたらいいのに。



「だから冬って嫌い」


「冬?冬が関係あるの?!」


「多いに関係ある!冬ってストールするでしょ?」


「うん」


「ストールでピアスが持ち上がっちゃって、気づけば落ちてるの」


「あぁ…なるほど」


「夏にピアス失くすなんて滅多にないもん」


「それなら冬は、きちんと留まるタイプの付けなよ」


「でも、この服にはこのピアスが合うな…とかあるじゃん」



めんどくさい。
絶対に言葉にはしないけど。



「俺があげたやつも落ちちゃうタイプのじゃないっけ?」


「そうなの!だから冬は付けられない…ていうか怖くて夏も付けられない」


「えぇ…」


「智に逢いに来る時は付けてるけど後ろに透明のキャッチ付けてるし。本当は毎日でも付けたいのに…」


「そうなんだ。大切にしてくれてるのはうれしいけど、もっと付けて欲しい気もする」


「あー!もう、どこで落としちゃったんだろう…結構、高かったのにな」


「今度、買ってあげるよ」


「そういう問題じゃないの!失くしたことが悔しいの!」



美穂は残った片方のピアスを名残惜しそうに手の平で転がした。
確かに最近、よく見かけた気がするピアス。
お気に入りだったんだろうな。



「俺も悲しい」


「嘘ばっかり。ピアス如きで下らないって思ってるでしょ?」


「ピアスに関しては、正直そこまで理解してあげられないけど」


「やっぱり」


「でも、せっかくひさしぶりに逢えたのに美穂がずっと元気ないのは悲しいよ」


「智…ごめん」


「やっぱり逢えた時は、なるべく笑顔が見たいかな」


「ごめん」



申し訳なさそうに言うと、美穂は俺に抱きついてきた。
「下らないね」と笑う美穂を強く抱きしめ返す。



「女子にとっては重大なことなんでしょう?」


「どうかな。一晩、寝たら意外と忘れる」


「そうなの?!」


「値段にもよる」


「それは、わかる気がする」



顔を合わせてキスをすると、美穂の笑顔が見れた。
片方だけ残ったピアスに目をやる。
なんとなく、美穂の好みはわかってる。
上手に作れるかは、わからないけど。
少しだけ器用だから。
世界に1つだけの、絶対に落ちないようなピアスを作ってみようかな。
そうしたら、もう美穂の悲しい顔を見なくていいでしょ?



 

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