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□リング
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「その指輪、いつも付けてるね」
「お気に入りなの。かわいいでしょ?」
「うん、よく似合ってる。高そうだけど…自分へのご褒美?」
「ううん、元カレからの誕生日…クリスマスだったかな?プレゼント」
美穂からの、その言葉で俺が固まったのは言うまでもないだろう。
元カレからの贈り物…しかもアクセサリー、しかも指輪!
それを付け続けるというだけでも理解不能なのに、増してや新しい彼氏が出来た今も付けてるなんて。
そこに嫉妬心は存在しない。
付き合って3ヶ月、それなりに美穂の性格は把握してるから。
その元カレに未練も想いも一切存在しないから、元カレからの指輪を単なるアクセサリーとして付け続けている。
それがわかるから嫉妬はしないけど、無神経だとは思う。
「別れて新しく彼氏ができるまでなら、まだ理解できるんだけどさ。新しい彼氏ができても元カレのプレゼント、しかも指輪を付ける?」
「えっ、変?一応、薬指には付けてないし…」
そう言うと、美穂は指輪をはめた中指を見せた。
「あの頃より痩せたの」と、うれしそうに。
「性格にもよると思う。俺は別れたら彼女からもらった物は申し訳ないけど捨てさせてもらう。なんとなく…嫌だから」
「そうなんだ?もったいないね」
「まぁ…もったいないかも知れないけど、普通には使えないよ」
「そっかぁ、私は全然気にしない!」
そう。
俺は、この子のこういうサバサバした性格に惹かれた。
時に俺が女々しくも感じるくらい、男っぽく潔い。
でもさ、それとこれとは別な気がする。
「俺は嫌なんだ」
「うん、人それぞれだよね」
「そうじゃなくて。美穂が元カレからもらった物を身に付けてるのが嫌なんだ」
理解できないと言った表情で見られると、本当に女々しい男な気がしてくる。
たかがアクセサリーじゃない?と言われたら、それまでだけど…
「俺は付き合った女性に生半可な気持ちで指輪は贈らないから。だからこそ、嫌かな…」
「ごめん…全然、気にしてなかった。ただのファッション感覚だった」
美穂は慌てて指から指輪を外すと「もう、いらない」とテーブルに置いた。
「一時でも想い合った人からの指輪は、ファッションリングにはならないよ」
「私、無神経だったね」
「いや…でも、それくらい俺は指輪って物をちゃんと考えてるから。俺が指輪を贈った時は、その想いも受け止めて欲しい」
「うん、わかった。いつか翔くんから指輪を贈ってもらえるような彼女になるね?」
「その時は、よろこんでもらえるような指輪を贈るから」
「え〜、期待できない!だって、翔くんのセンスで選ぶんでしょ?」
「ひっど!とびっきりの買ってやるよ!」
「楽しみに待ってまぁす」
美穂は俺に抱きつくと、笑う俺にキスをした。
こんなことを言うのは変だけど。
もし、もしもいつか俺達が別れてしまう時が来ても。
俺が贈った指輪はファッションリングになんてなれない。
そんな恋愛を、美穂としていきたいと思った。
それよりも、別れる時なんて永遠に来ないような恋愛をしていこう。
そう願いながら、美穂の左薬指に触れた。