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□髪型
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「かっこいい!!」



帰宅早々、美穂の声がリビングに響いた。
今までの経験からして、なんとなく予想はついてたけど。



「本当に短髪が好きなのね」


「和也は絶対に短い方が似合うの!」


「そう?更にガキっぽくならない?」


「ならないよ〜!更にイケメンになる!」



大きな仕事の前に伸びてた髪を切った。
昔から母親も、少しでも髪が伸びてると「髪の毛、切りなさい!」と電話をしてくる。
俺自身は、どうでもよくて。
基本、俳優の仕事が入っていない時期は伸び放題でもいいとすら思っていて。
だけど、美穂も俺の短髪が好みのようで…
まぁ、かっこいいと満面の笑みで言われたら悪い気はしないけど。



「じゃ、究極の短髪…坊主にしたら、どう?」


「坊主?坊主の和也…」



少し考えた後、美穂は吹き出して笑った。
頭の中で想像したんだろうけど、笑うってさ…どうなの。



「坊主は、ない!スキンヘッドって言うより坊主だもんね!一休さんだもんね!!」


「笑い過ぎ。意外と似合うかもよ?横にラインとか入れちゃって」


「やめて、やめて!想像しただけで苦しい!」



「痛い、痛い」とお腹を押さえながら涙を流して笑うと、美穂はティッシュで目尻を拭いた。
美穂が座るソファの隣に座ると「本当かっこいい」と満足そうに笑う。



「俺も、美穂がショートにしたら「かわいい!」とか騒ぐのかな」


「ショートが好きなの?」


「いや、ずっと長いのしか知らないからイメチェンとして?」


「どうだろうね、そこは好みじゃない?冷静にゲームしながら「似合ってるよ」で終わりそう」


「うん、終わりそう。別に髪型とか、どうでもいいしなぁ」


「じゃ、私が坊主にしても愛せるの?」


「愛せるよ。何も変わらない」



即答で答える俺に「本当に〜?」と疑いの目を向けるけど。
迷いなんて一切なく答えられる。



「だって俺、美穂の見た目に惚れたわけじゃないから。坊主になっても、美穂自身が変わらないなら愛情は何も変わらない」


「なにそれ…いきなり愛の告白?」


「愛の告白じゃないよ、普通のことを言ってるだけ」


「どうしよう、坊主の和也を想像して笑い転げてた自分が情けないよ」


「いいよ、そんなキミも好きだから」


「でも、おもしろいだけだからね?おもしろいから笑ってただけで別に坊主にしたからって別れるとかじゃないからね?」


「わかってるよ。俺は坊主の美穂を想像しても笑わないけどね?」


「…そこは笑おうよ」


「だって想像したって、美穂だよ」


「お願い、笑って。そして、私を許して」


「許さないよ。涙まで流して笑った罰として、今夜はお仕置きね?」


「よろこんで」



短くなった俺の髪に愛おしそうに触れると、美穂は幸せそうに微笑んだ。
わかってるよ。
だって俺の髪が伸びても、別に「切りなよ」とか「短い方が好き」なんて言わないもんね。
ただ、長いよりは短い俺の方が好き…かなり好きってだけで。
どんな俺のことも愛してくれてること、わかってるよ。
ありがとう。



 

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