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□自分以上に
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「買い過ぎ!絶対に最近、買い過ぎだって!」


「そう?でも、季節が変わると気持ち的に欲すると言うか…」


「季節が変わる前から“寒くて、ついつい買っちゃう”ってセールの冬服を買ってたよ」


「セールだからね、来年の冬に備えて…って気持ちもあるんだよ」



私の言葉を聞いて、翔は不満そうに口を尖らせてジーッと見つめてくる。
確かに最近、やたらと買い物をしている。
洋服にバッグに靴に化粧品…
買って来た物を翔に見せるのが楽しくて毎回、見せるんだけど。
最初は「よかったね」とか「似合うじゃん」と笑ってくれた。
それが最近では「また?」とか「この前も買ったじゃん」と否定的な言葉を口にするようになった。



「自分で働いたお金で買ってるんだからいいでしょ?そこまで高価な物じゃないし」


「そういうことを言ってるんじゃないよ。本当に欲しい物なら何も言わない」


「本当に欲しい物だから買ってるんだよ」


「じゃ、あれは?どういうこと?」



翔が指す方向を見ると、袋に入ったままのバッグが置かれていた。
先週、買ったバッグ…忘れてた。



「あれは…もう少し暖かくなってから使おうかと思っ…」


「嘘ばっかり」



私の言葉を遮るように、翔が言った。
さっきまでの不満そうな表情は、心配そうな表情に変わっていた。



「美穂は本当に欲しい物を買ったら、その日に袋から出して次の日には着たり使ったりしてるよ」



確かに。
性格的に、暖かくなってから使うなんてことは出来ない。
なんなら、アクセサリーなんて買い物中のカフェで開けて着けちゃうくらい。
その時に使いたいから、その時に買う。



「おいで」



ソファに座っている翔に呼ばれて、隣に座ると優しく抱きしめられた。
その時、何故か泣きそうになった。
なんでだろう。
別に悲しいことなんて、泣きたくなるようなことなんて、ないのに。



「美穂が稼いだお金を、どう使おうと俺は何も言わないよ?そりゃ、ホストクラブとか通い出したら話し合うけどさ」


「なにそれ」


「笑い事じゃないよ?本当に欲しい物を買えたなら、俺もうれしいよ。よかったね、って心から思う。でもさ…」


「でも?」


「自分でも気づいてないっぽいけど。美穂はストレスが溜まると買い物が増える、しかも買ったら放置気味」


「本当に?!今までも、そういうことあった?!」


「何度か。結局、後々ちゃんと使ってるけどね。たまに“なんで、これ買ったんだっけ”とか言ってる時もあった」


「そう…怖いね。どうしよう」


「その度に、俺のせいだなって悔しくなるんだ」


「なんで!どうして翔のせいになるの?!」



慌てて体を離すと「離れんなって」と抱き寄せられた。



「ストレスなんて俺が満たせるはずなのに、それが出来てないって自覚ある時よく買い物してる」


「嘘…ごめんなさい。そんなつもりなかった」


「だからさ、最近よく買い物してるな…って感じたら。こうやって俺を求めて?俺に抱きしめさせて?」


「うん、ありがとう。自分でも全然、気づけなかった」


「そこは、うれしいかも。美穂以上に、美穂のことを俺がわかってる」


「そうだね、それは私もうれしいかも」


「ま、俺もそうだしね。俺のことは俺以上に、美穂がわかってる」


「本当に〜?!私、そんなデキた女?」


「もちろん、最高の女だよ」



そう言うと翔はキスをした。
私、ストレス溜まってたのか。
思い当たる節はあった。



「でもね?確かに買い過ぎだったけど、買う時はいつも“これ、翔の好みかな?”って考えて買ってたんだよ。手当たり次第ってわけじゃない」


「ありがとう。俺の好みなんて、ないよ。俺の好みは、美穂だから。美穂が好きな物を選んで買ってね?」


「私が好きな物は、翔からかわいいって思ってもらえる物!」



そう言って翔を押し倒してキスを返した。
きっと明日から、私は買い物をしなくなる。
その代わり、翔に似合う春物の洋服を買いたくなった。



 

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