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□好きな季節
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「なんだか、ゴキゲンじゃない?」



料理を作りながらキッチンから、美穂の鼻歌が聴こえて来た。
ソファに寝転がってテレビを見ながら、しばらく聴いていた。
もう少し聴いていたかったけど思わず笑ってしまって問いかけた。



「だって!梅雨が明けたんだよ?しかも、こんなに早く!」


「あぁ、ニュースでやってたね。夏、好きだもんね」


「うん!梅雨明けが早いってことは、今年の夏は長いってことでしょう?」



幸せそうに笑う美穂を見ても、俺は同意しない。
夏の何が楽しいんだろう。
暑いし、疲れるし、汗かくし…



「夏の何がいいんだよ?って思ってるんでしょ?わかってますよ」


「さすが。夏が好きなんて意外とリア充なのね」


「夏が好き=リア充、って発想が非リア充だよね」


「非リア充ですもん」


「気分的に明るくなるし、外も遅くまで明るいし、洋服の色合いも明るくなるし…」


「なになに、そんなに世の中に明るさを求めてるわけ?」


「暗いよりはね。あとは何より〜」


ビールが美味い!


「そこは激しく同意」


「あとは女性達の洋服が薄着になるとか?」


「それは世の男子、全員がよろこんでることだよ」



「まったく」と呆れ笑いしながら、美穂が料理をテーブルに運ぶ。
美味しそうな匂いが鼻に届いた。



「じゃ、和也が好きな季節はいつなの?冬だって寒いってブツブツ言ってたじゃん」



寝転がる俺を追いやるようにお尻を振ってソファに座ると、美穂が聞いてきた。



「ん〜、冬は忙しいからなぁ。でも、夏にドラマなんて入った時は…」


「夏と冬は嫌いなのね?春じゃない?花粉症でもないし、気持ちよさそうに昼寝してたし」


「人を、おじいちゃんみたいに言うな」


「おじいちゃんって言うより、小学生の昼寝みたいだったよ」


「春も気持ちいいけど、秋かな」


「へぇ!?そうなんだ?食べ物も美味しいし?」


「まぁね。やっと涼しくなってきた〜!ってよろこびとか?」


「私は、夏が終わっていく〜!って悲しみしかないよ」



美穂はソファから立ち上がると「歳も取るし」と溜息をつきながらキッチンに戻って行った。



「だからだよ」



小さく呟くと、再びキッチンから聞こえてくる鼻歌に目を閉じた。
大切な人が産まれて来てくれた季節だから。
俺は秋が一番、好きなんだ。
なんて、絶対に言わないけどね。



 

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