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□Our date
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「あっづーい!」


「暑いって言いながら、なんでベランダに出てるの?」


「夏を感じてるんだよ」


「なるほど…今年はドラマも映画も撮影ないもんね。でも、ロケ出るでしょ?」


「ん〜、まぁね」


「何も、わざわざ暑い思いしなくても」



そう言うと美穂はクーラーが効いた涼しい部屋で、笑いながらソファに座った。
ベランダに置いてある、お気に入りのテーブルとイスのセットに座りながら美穂を眺める。
眠そうにアクビをして、雑誌をペラペラめくっている。
俺のオフに合わせて仕事を休んでくれた。
なのに、なかなかデートにも連れて行けなくて。
それでも不満1つ言わずに、幸せそうにいてくれる。
だから、せめてこうして一緒に夏を感じられたら…と思って。



「美穂〜」


「なぁにぃ?」


「昼飲み、しちゃわない?」


「いいねぇ!せっかくの休みだしね!」


「持って来てよ、一緒に飲もう」


「え〜、ベランダで?暑いじゃん!」


「暑い中で飲むビールが美味いだろ?!」


「まぁね…OK!」



小走りでキッチンに向かう美穂を見ながら、自然と口角が上がった。
幸せな…1日になるといいな。



「はい、どうぞ」


「サンキュ。じゃ、乾杯!」



缶をカツンと合わせて、冷えたビールを流し込む。
2人で「んまい!」と唸り声を上げた。



「あっついけど気持ちいいね」


「だろ?やっぱりビールは暑い場所で飲む方が美味いよ」


「海とかフェスとかね、最高だもん」


「今年は行かないの?海辺でのフェス、毎年行ってるじゃん」


「今年はフラれちゃったの!彼氏と一緒に行ってもいいかな?って申し訳なさそうに言われちゃってさ〜」


「あぁ、友達に新しい彼氏できたって言ってたもんな」


「ま、その気持ちもわかるし快くOKしましたよ」



その気持ちもわかる、か…

「じゃ、今年は俺達も一緒に行く?」

そんな言葉が喉まで出かかった。
逆に、あんなに人が多くて他のことに夢中になってる場所ならバレないんじゃ?なんて甘い考えが頭を過る。
いや、ダメだ。
大切に想ってるからこそ、ダメなんだ。



「じゃ、今年はこうしてベランダで夏を感じながら満喫しよう」


「いいねぇ!アイスを食べたり、ミニプール買って足とか入れたり!」


「いっそのこと、プール買っちゃう?ベランダプール!」


「それ、いいかも〜!少し大きめの買えば、2人なら入れるよね!」



「ごめん」なんて言わない。
それは諦めたことになる。
外を一緒に手を繋いで歩けなくても、俺達なりの夏があるから。
俺なりに、幸せな夏を美穂に贈るよ。
それは絶対、俺の笑顔にもなるからね。



 

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