未知なる味を求めて

□gourmet.2 バロン諸島
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美食屋―
未開の味を求め、まだ見ぬ食材を自ら探し捕食する職の探求者である。

Gourmet.2 バロン諸島 
〜Menu.1ガララワニ〜


「機嫌悪そうだな小松。」
「いや…暫く刺身を食べたくなくなる恐ろしい悪夢を見てしまって寝不足なんですよ。」
「へぇ、どんな夢だ?」
「興味本位で聞いているんなら聞かないほうがいいですよトリコさ…オエゥッ」
「これから船乗るのに大丈夫かよ。」

思い出しただけで今朝食べた朝食が口から出てきそうになる。
どんな夢をみたかって?
そんなに気になるんですか…しょうがないなぁ。

ウーメン梅田局長の男体盛り

ケツ顎・青ひげ・おかっぱ・一本まゆげ・おかっぱ・胸毛・・・。
兵器としか言いようがないものでした。

「今ならどんなゲテモノもいける気がする…。」
「小松!早く乗れ!!」
「あっはい。」

どこまでも広がる青空を見上げ呆けていると既に船上にいたトリコさんから声をかけられる。
俺は早足で船に向かい飛び乗った。

向かう先は“バロン湿原”―危険指定区域である。


「―で、トリコ!そいつは何なんだ!?見習いの美食屋かっ?」
「こいつは依頼人の小松だ。」
「宜しくお願いします。」
「依頼人!?わっはっは物好きがいたもんだなっ。」

運転室から顔をだしているのはこの船の船長・十夢さん。
卸売商で今回のようにトリコさんの依頼で船を出すことがあるそうだ。

「ケガしても労災何も下りねーぞ小僧!危険区は保険適用外だからなっ死んで当然、自殺と同じだ!!」
「満面の笑みで言うことじゃないでしょう。」
「遺書かいといたほうがいいんじゃあないか?」
「遺書よりも局長を提訴する告訴状を書きたいところですよ。」
「?」
「今回俺がトリコさんの狩りについてきたのは上からの命なんでね。さて…いくらとれるかな…。」
「「」」
「やだなぁ冗談ですよ。そんな目で見ないでください。」

食材の捕獲には前々から興味があった。
上からの命令もあるけれど、実際に生の食材を生きた状態で見てみたいという好奇心のほうが勝ってしまったというのが今回狩りに同行した理由。

しかも捕獲対象であるガララワニに関する面白い情報も局長から聞いてきたから中々に楽しみだ。
…にしても。

「よく食べますね…。」
「うんめぇ!…っところで小松、どこで調理してんだ?高級ホテル?高級料亭?今度食べに行くから教えてくれよ!」
「…俺、料理人だって教えましたっけ?」
「おい、不審者を見る目で見るな。」

少し距離を置いて自分自身を抱きしめるようにして彼を見ると苦笑い気味に更に続ける。

「お前の手から食材の香りがプンプンすんだよ。」
「変態?」
「ちげーよ!」
「トリコの嗅覚は警察犬をしのぐらしいぜ!」
「凄いですね…。」

トリコさんの口から出てきた食材や使用した油の名前は確かにうちで使っているものと合致した。
嗅覚は味を計る上でもかなり重要な感覚器官。
常人以上に優れた能力をもっているなんて…これがプロの美食屋か。

「で、どこ?」
「ホテルグルメでコック長をさせてもらってます。若輩ですが、ね。」
「おー!五つ星ホテルじゃねーか!!今度フルコースご馳走してくれよ!!」
「この旅から無事戻れたら、考えておきますよ。」
「おう!」
「十夢さんも奥さんと一緒に是非いらしてください。」
「おりがとな!…さて、お二人さん島…見えたぞ。」

視線を前に向けると見えたのはひとつの島。
少し前まで晴れていた空はいつの間にか曇天にかわり、不気味な雰囲気の島は更にその気味の悪さを倍増させている。
周りは岩礁で囲まれておりまるでそれは島へ入ろうとする者を拒んでいるように思えた。

トリコさんが言うにバロンフェンスと呼ばれるこの岩礁、潮の満ち引きに関係なく抜けれるルートはたったひとつのみ。
それを知っているのが船長である十夢さんなんだとか。
にしても…揺れる揺れる。
これ、船酔いする人は一回目のカーブで酔うレベルだぞ。
こんなにスピードをだして運転するのは長年の慣れ、なのか?
なんでもいいが安全運転でお願いします。

てかよくこの揺れで平然と立ってられるなトリコさん。

「おー…。」
「到着!ここがバロン諸島唯一の入口、通称“鬼の口”と呼ばれるマングローブのトンネルだ!!さぁ、一気に突っ切るぞ!!」
「トムっここまででいい!ボート出せるか!」
「あ?どーした急に。」
「島の様子がおかしい…匂いがするんだ。トラブルの匂いだ…。」

先ほどとは全く違う雰囲気を纏ったトリコさん。

刹那、俺の頬を冷たい風が撫で上げた。
それはこれから起こるトラブルの前兆なのかもしれない…。


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