鬼と妖怪

□攫われた鬼嫁 一
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「蛇骨、お前は睡骨と一緒に犬夜叉の兄貴を殺せ。」

「えぇ〜?!俺犬夜叉がいいよ蛮骨の兄貴ぃ!」

「だめだ。あいつは俺が殺る」

「ちぇー。」

「奈落がいうには、犬夜叉の兄貴殺生丸の弱点は、連れの女らしい。」

「連れの女ぁ?」

「あぁ。なんでもすごい美人らしい。なんなら殺生丸を殺っちまったら俺の女にしてやろうかなぁ。」

「前に会ったときそんな奴いたっけかなぁー?」

「お前は男にしか興味無いからだろ。」

「あっそうだった〜!じゃ、俺と睡骨でその女を連れてくりゃいいのか?」

「いや。奈落が、『西国の鬼、風間千景に会え。』だとよ。」












森を出て、しばらく歩くとひらけた町があった。
たくさんの店が立ち並び、思わず囚われの身だということも忘れ、色々なお店に目がいってしまう。

『あっ…あの紅、かわいい…。』

私が思わず見惚れてしまったのは、薄桜色の貝殻の中に紅が入ったもの。とても上品でかわいらしい…。

「こっちだ。」

細い路地を入っていくと、表の雰囲気とは一変。静かで、なんだかちょっと怖い。
彼はすたすたと先を行き、やがて一軒の店の前で止まった。
特に看板もなく、だぶんなにかのお店だとは思うけれど、知る人ぞ知る隠れ家か何かでしょうか…。

店に入ると、つくりは料亭のようではあったがしんとしており、他にお客はいないようだった。何本か蝋燭が灯っており、ほんのりと幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「風間さまでございますね。お待ちしておりました。」

いつの間に現れたのか、美しい女将がお辞儀をして迎えてくれた。髪が白銀で角もある。一目見て鬼だと分かった。

「ご準備は整ってございます。まいさまはそこの者に奥の間にご案内させていただきます。」

女将が手を差し示した先には、若く美しい娘の姿の鬼が立っていた。

「こちらへどうぞ。」

今から何が始まるのか…。足を踏み入れるのがとても怖く、足がすくんでしまった。

「とって食うわけではない。誇り高き我ら鬼は、そのような寝首をかくようなことはせぬ。」

殺生丸さまがいない隙に私を攫ったくせに……。
そう思って無言で睨んでみる。

「ほほ…風間さまの奥様は気が強くいらっしゃる。しかし、かわいらしいお顔で睨んでもあまり迫力はありませぬなぁ」

女将が笑ってそう言う。

「私は奥様じゃありません」

「そうだな。まだ祝言はあげておらんからな。」

「そのようなもの、あなたとは一生あげる予定はありません。」
「減らず口を…。とりあえず行け。悪いようにはせん。」

ここに来てしまった時点で鬼が3人…。
もうどうしたって逃げ場は無い。
もう一度心の帯を締め直し、覚悟を決めた。

「わかりました。」

連れて行かれた先は小さめの奥の一室だった。
部屋に入るとまず目に入ったのはとても美しい打掛。
赤を基調とした生地に白い睡蓮が咲き誇り、かなり身分の高いお姫様ぐらいで無いと着られない代物。

「綺麗……。」

「それでは、今のお召し物をお預かりしますね。」

「えっ、私がこれを着るのですか?」

「もちろんです。きっととてもお似合いになられますよ。」
そう言われ、なされるがまま着物を脱がされてゆく。



「このお着物、とっても綺麗ですね。これは…女郎蜘蛛の糸でしょうか。」

「あ、はい。そう言っていました。」

「もしかして、風間さまからいただいたものですか?」

「え?いえ、違います。」

「あら、そうなんですか?脱がれる時、大事そうに見てらっしゃったからてっきりそうだと。」

「これは…。ある尊敬する方から頂いたものです…。」


殺生丸さま…。
早く会いたい。早く私を見つけてほしい。
その腕にまた抱きとめられたい…………。


「尊敬する…ですか。まいさまはもしかしたらその方を恋い慕っておられるのでは?」

「え!?!?こ、恋い慕っているなんて、そんな、無いです!まさか!」

「ふふ。ではそういうことにしておきますね。」

「ほ、ほんとうにそうなんです!」

突然変な事を言われ、かなり戸惑う私。
殺生丸さまを恋い慕っているなんて、そんな恐れ多いこと……。
そもそも、殺生丸さまは人間があまり好きではないようだし…。
私なんてきっと殺生丸さまからしたら、恋愛対象どころかただのちっぽけな人間なんだろうな。

そう思い、気分も沈みかけたとき、

「できました!まぁ!すごくお似合いです!」

姿見に映るのは、普段の自分とは違い、濃いめの化粧で紅までしっかり塗った大人びた姿だった。

「わぁ…。私じゃないみたい」

「普段の淡くかわいらしい感じもお似合いですが、こうゆう大人びた感じもまたお似合いになられますね!」

「さ、風間さまがお待ちです。参りましょう!」
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