鬼と妖怪
□夕空翔けるこの想い
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「できました!では早速、村に聞き込みにいきますね!」
「待て待て待て!なんじゃそれは!?熊かなんかか?」
「まぁ!失礼な!私のお父様です‼」
「到底人間に見えんぞ…まい、お前絵心無さすぎじゃ…。」
「邪見さまったらひどい!」
「殺生丸さまだってこれはひどいと言うじゃろうて」
「そんなことありません!ね、殺生丸さま、これはどこをどう見ても人間ですよね!」
そう言って期待に満ちた目で私を見つめるまいには悪いが、やはり従者の言う通り、人間には見えない。
彼女の絵心はさて置いても、この絵を持って村に聞き込みに行ったとて、結果は見えているだろう。
まいは故郷を離れる際、父の使用していた羽織りを持って出た。
私がそう進言したからだ。
私の鼻は離れている人物のにおいを辿ることができる。
この村にまいを聞き込みに行かせようとしているのは、においを辿り、彼女の父綱吉がこの村に訪れた可能性があったからだ。
しかし、妖怪である私が人間のにおいを辿って家々を回るわけにもいかず、代わりに似顔絵を持って探させることにしたが……
この分では他の方法を探したほうが良いかもしれない。
「もう!殺生丸さまも人間に見えないって言いたいんですね!ひどい!」
「ほりゃみろ、やはりそれは熊じゃ!」
私の無言を否定だと取ったまいは、怒ってそっぽを向いてしまった。
軽く腕をくみ、そっぽを向いているまいの袖には、淡く美しい桜が咲き誇っている。
少し前に私が彼女に与えた着物だ。
とてもよく似合っている。
白い絹のような生地は彼女の白くなめらかな肌のようで、桜は彼女の頬の淡い朱色と同じだ。
女にそんなことを思ったことなど生まれてこの方一度もなかったが、
彼女の美しい着物姿を見たとき、自然とそう思った。
邪見を遣いに行かせる際、妖桜の花びらを持たせた甲斐があった。
「よし、儂が代わりに書いてやろうて!」
「えー。邪見さま、お父様を知らないじゃないですか」
「特徴さえ聞けばなんてことはないわい!」
………聞き込みに行くのはもう少し先になりそうだ。