鬼と妖怪

□攫われた鬼嫁 一
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「では…風間さまはあの娘を手に入れたいと思われておられるのですね?」

「手に入れる…?もとよりあれは俺の物だ。手に入れるのではない。取り返すのだ。」

「これはこれは…失礼いたしました。」

「お前の狙いはなんだ?この俺に姿を見せず、傀儡などで接触を図るなど…。」

「申し訳ございません…。この奈落…今は容易く外を歩ける状態ではございませんので……。傀儡で申し訳ありませんが、ご尊敬する風間さまに一つお願いしたい事柄がございます。」

「願いだと?」

「はい。実は……………。」





















奈落の邪気がどこからも感じられなくなってからしばらく経った。
まいの村が奈落によって襲われて以来、全く足取りが掴めなくなっていた奈落。

ただ、奴は必ずどこかに居て、力を温存していることは確かだ。
最近白霊山周辺に不穏な動きがあるのもその証拠であろう。




まいと旅を共にするようになってもう随分経つ。

まいは非力な人間らしく、少し歩けば疲れるし、喉も渇くし、腹も減る。
妖怪の私は寒さを感じなくとも、彼女はくしゃみをし、身震いもする。

ましてや女の身。
体力も無く、本当に非力だ。

人間など虫螻程度と思っていた今までの私なら、彼女のことを煩わしく思い、すぐにこの手で殺していたかもしれない。
そもそも、人間と旅を共にするなどありえなかったのだ。
しかし何故なのか、彼女とまた出逢って、私は彼女の命を天生牙で救ったのだ。

今でも人間は好きでは無い。
だが、まいのことを他の人間とは同じようには思えぬのだ。
何故かは分からぬが………。



「殺生丸さま、喉が渇いたのでそこの川で水を汲んできてもいいですか?」

「こりゃ!!さっき休憩を入れたばかりであろう!殺生丸さまの足をひっぱるでな…」

「構わぬ。」

「わぁ!ありがとうございます、殺生丸さま♡」

「へ?…っもう!ほんとまいには甘いんだから〜っ!!邪見もういや!こんな生活耐えられないっ!」




彼女が以前、下衆な男共に手篭めにされそうになった時があった。

風の匂いですぐ、彼女が危険な状況にあったことが分かったので駆けつけたが、下衆共に着物に手をかけられ、その美しい鎖骨が曝け出されていた。
その光景を見た瞬間、この身に流れる血が怒りに沸き立ち、男共をずたずたに引き裂き、人の跡形も無い肉片にしてやりたい衝動に駆られた。

しかし、彼女の目の前で人を殺めたくはなかった。
妖怪である私が、人間を殺すのは実に容易い。
だが、妖怪によって友人や一族の者を殺された彼女の前で、その光景を繰り返したくはなかった。


「お待たせしました!喉も潤ったことです、先を急ぎましょう!」

「なーにが急ぎましょうじゃ!お主のせいで足止めを食らっておったのじゃぞ!」

「聞こえませーん♪殺生丸さまは『構わぬ』って言ってましたもの」



まいの父の動向は未だ掴めていない。
匂いを頼りに、疑わしき方向に歩を進めているが……どうも白霊山の方角なのが気がかりだ。
私は奈落を追う為にも白霊山に行かねばならないが、彼女の父が何の関係も無ければ良いが………。


まいの涙はもう、見たくはない。






「お主、最近生意気になってきよったのぉ!会ったばかりの頃は、もうちっとしおらしくはなかったかー?あと、殺生丸さまの声真似、ぜんっぜん似とらんぞ!」

「『構わぬ』…どうじゃ?結構似とったであろう!?」


「えー。殺生丸さまはそんなしわがれた声じゃありませんよ。」

「な!!どこがしわがれておるのじゃ!!そっくりだったじゃろうが!やっぱり生意気じゃ!」




……………。



ドカッ
バキッ




「…………も、申し訳ありません…殺生丸…さまぁ……。」

「もー邪見さまったらそっくりだなんて言うからー。」





白霊山はもうすぐであろう。
しばらく、彼女には留守番をしてもらうことになる。

あの鬼がまた襲ってくる可能性があるが、白霊山に連れて行くよりもまだ安全だ。
彼女の周りには私が張った強い結界を張り巡らせておくことにしよう。










この選択を後々深く後悔するとは、この時の私は思いもしなかった。
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