鬼と妖怪
□湯けむり〜迷子の子猫ちゃん〜
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殺生丸さまは、私を迎えに来てくださってからすぐ白霊山に出戻った。
その頃には既に、奈落は新生奈落となり、その身をさらに強化して現れたそう。
なのに戦うでもなくまた姿を消した。
現れたと思ったら忽然と姿を消した奈落を探すべく、そして私は、父の行方を探るべく、私達の旅はまた始まった。
ヒソッ
「…ねぇ、邪見さま。」
「なんじゃ?」
「殺生丸さま、なんでずっと不機嫌なんでしょうか……」
「あーーー。」
そう言って目を逸らす邪見さま。
もしかしたら、心当たりがあるのかもしれない。
「何か知ってらっしゃるんですか?」
ヒソッ
「いや……な……。お主、その着物…殺生丸さまにいただいたものなのか?」
「いえ、これは風間さんからいただきました。……あ!もしかして、殺生丸さま、与えた着物をどこへやったのか!と怒ってらっしゃるんでしょうか!?」
「いやまぁそれもあるじゃろうが……」
「大丈夫です、ここにちゃんとしまってあります!」
阿吽の腰に繋いであった風呂敷を広げ、邪見さまに着物をみせた。
『殺生丸さま……着物を捨ててきたとお思いなのかもしれない……だから不機嫌なのかも……』
「なら、なぜその着物を着ないのじゃ?」
「もちろん、これからも着させていただきますよ?でも、もう水無月も半ばで桜の着物は季節外れかと思いまして……」
「だから蓮の着物か?」
「はい。それに、あの着物を毎日着ていたら、生地が弱ってしまいそうで……あの着物は大事にずっとずっと着ていきたいと思っていますから……。」
そう、殺生丸さまからいただいたものだから、大事にしたい。
「女郎蜘蛛の糸でできた着物じゃぞ?そんなやわじゃないわい!」
「そうなんですか?!とっても繊細そうなのに……でも、丈夫なら着ようかな。私、あの着物とってもお気に入りなんです」
「そうしてくれ…。でないと儂の身体が保たん……。」
そう言う邪見さまは確かに、なんだか更に老けたような気がした。
「あと、あれじゃ…。お主たまに紅を引いてることがあるじゃろう?」
「そうですけど…?たまに引きたくなるんです。女心ですよ♬」
「はぁ…………それも風間からもらったものか?」
「はい。くださいました。それが何か………あ……もしかして私……紅、似合ってませんか?」
「は?」
「もしや殺生丸さま…私が似合いもしない紅を引いているから不機嫌に………。」
そうだったら、悲しいけれど殺生丸さまが不快に思われることは慎まなくてはいけない。
ご好意で一緒に旅をさせてもらっていて、その上お父様を探すのを協力して下さっているのだから……。
「いやまぁ、似合う似合わんは別にしてもじゃな、その……あれじゃ、あまり殺生丸さまの前で風間から貰ったものをつけるのはだな………」
「あ……そうですよね。一応敵……なんですものね…。」
風間さんがいくら私を助けてくれたにしても、殺生丸さまからしたら敵に変わりない。西国をかけて戦わなくてはならないのだから…。
「敵……まぁそうじゃな、敵視はするじゃろうな。いやそうであって欲しくはないがもうこれはいわゆるあれじゃろうな。うん。たぶん、いや本当にそうではないと願いたいが………」
邪見さまが早口でぶつぶつ言っていて、聞き取り辛かったけれど、やっぱり邪見さまも戦いは避けたいと考えていらっしゃるみたい。
「あの、殺生丸さま!!」
先を歩く殺生丸さまに聞こえるように少し声を張った。
「叫ばずとも聞こえる。」
あっ…そうでした…殺生丸さまは犬妖怪だから耳が良いんでした。
「あの、私、着替えをしたくて……。」
「ならば、ついでに湯浴みもするか?」
「え?」
殺生丸さまが視線を向けた先には、煙がもくもくと立ち込める………
「温泉!!!すごい!!!」
そう、そこには温泉が湧き出ていた。