鬼と妖怪
□湯けむり〜迷子の子猫ちゃん〜3
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「で、お前、名前は?」
「雪村まいです。」
「んじゃあ、雪村。とりあえず今日はこの部屋貸してやるから好きに使え。警察には明日行ってやるから、その知り合いの特徴なり言えば後は探してくれんだろ。」
「あ、ありがとうございます!」
雪村まいと名乗った少女は、見た目、大和撫子といった感じだ。
どうやら不良少女というわけでは無さそうだ。
こんな夜更けに夜道を頼りなげにうろうろしていたコイツを補導し、家にでも送り返すつもりだったが、何やら訳ありで帰るところが無いときた。
教師たるもの、やはり未成年をほっておくわけにはいかず、とりあえず疲れてるみてぇだから、朝までは家に泊めてやることにした。
「ったく。いい歳して迷子になんかなるんじゃねぇぞ。」
「す、すみません...。」
「あの、土方さん。」
「なんだ?」
「薄桜学園ってどこにあるかご存知ですか?」
「!?ご存知も何も俺の赴任してる学園だ」
「えっ!そうなんですか!?」
いつの間にか雪村は、手には紙切れを持っていて、俺はなんとなくその紙を覗きこんだ。
この筆跡...
間違いねぇ...毎日毎日毎日世話をかけられっぱなしのある一人の生徒の顔が俺の頭に浮かんだ。
あのやろーしかいねぇじゃねぇか!
「...総司か。」
「あ、はい!沖田総司さんとおっしゃる方です。」
「お前、総司と友達なのか?」
確かにアイツは顔だけはいいからな。
校内外問わず女子に人気だ。
彼女にして欲しいと詰めかける女が腐るほどいることも知ってる。
こいつもその一人だろうか?
「今日会ったばかりの方なのですが...お友達と呼んでもよいものなんでしょうか...?」
「会ったばかりなのに住所教えやがったのかアイツは?!」
あの総司が会ったばかりの奴に自分の個人情報を教えただと!?
アイツは自分と本当に仲のいいやつにしか連絡先を教えたりしない。
どんなに女が言い寄ってアドレスを教えてくれと言っても、俺が知ってる限り全部
『嫌だけど。』
と一刀両断しているはずだ。
「連絡先を交換しないかと聞かれたのですが...私、その..すまほ?とか、がらけー?という物を持っていなくて...。」
「っ!総司の方から聞いてきたのか!?」
「は、はい。その、すまほとかってどんなものなんですか?」
あの総司が自分から連絡先を聞いたなんて、明日は槍でも降るんじゃねぇか!?!?
それとも総司のやつ、こいつに惚れやがったのか?
「不純異性交遊は、教師として見過ごすわけにはいかねぇからな。」
「えっ?」
「いや、なんでもねぇ。それより、スマホだったな。これだ。」
今時スマホを知らないなんて、どれだけ世間知らずなんだ?と思わなくはなかったが、少し話しただけだが、どうもこいつが嘘をついているようにも思えなかった。
物珍しそうにスマホをこねくりまわしているこいつを見ていると、なんだか少し笑えてきた。
「あの、あとらいん?ってなんですか?」
「あぁ、アプリのことだ。この緑のやつあるだろ?これを開いて、この文字パネルで入力すると、好きな相手と話のやり取りができる。」
「すごいです!!!これは、大体相手に届くのに何日くらいかかるんですか?」
「何日って...一瞬だよ。瞬きしてる間に相手に届いてる。まぁ、既読マークがついた瞬間に相手が見たことになるんだがな。」
「一瞬で!?すごすぎます!!」
「お前なぁ〜?」
大袈裟なやつ。
そう思うが、無垢な笑顔を見せられて野暮なことは言えなかった。
「じゃ、俺は残った仕事があるから、書斎に籠る。変な気使わず勝手に寛いでくれ。」
「本当にありがとうございます。お仕事、頑張ってくださいね。おやすみなさい。土方さん。」
「あぁ。おやすみ。」
今日は珍客がありバタバタしたため、残った仕事は全く手に付いていない。
明け方までかかりそうだなこりゃ...。
眠気覚まし用にコーヒーを用意し、別室で寝ているだろう彼女を起こさないようにそっと書斎の扉を閉めた。