鬼と妖怪
□早春芽生える恋心
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「桜……?!」
目を開けると、まだ満開に咲くには早いはずの桜が、たくさんの花を咲かせ、風にのせてその花びらを散らしていた。
「桜にはまだ早い時期なのに、随分せっかちな桜なのですね…」
「妖桜。普通の桜では無い。」
「妖桜?」
「一年中咲いている。」
「すごい……綺麗ですね…。」
桜は、どこか儚く、幻想的な雰囲気をもっていてた。
隣にいる殺生丸さまと、少し似ているような気がした。
ひとつだけ違うのは、その桜の木のまわりだけ、なぜかときが止まって感じたこと。殺生丸さまのときは、力強く動いている。儚く美しいけれど、その見た目とは裏腹に、強い意志と生命力を感じるから。
だから、彼のそばにいると安心するのかもしれない。
彼のそばにいたら、私はちゃんと生きているんだって実感して。
一度無くしかけたこの命。
救ってくださったのは他ならぬ殺生丸さまなのだから。
「気にしているのか。」
「え?」
「鬼の戯言を。」
「あ…はい……。」
「安心しろ。お前はただの人間だ。」
「東国を牛耳る雪村家の鬼が、むざむざ雑魚妖怪などに命を奪われるようなことは無い。」
「ふふっ。そうですね。私が鬼なら妖怪をやっつけられたはずですね。」
「私、人間でよかった。人間じゃなかったら、こうして殺生丸さまとは出会えなかったかもしれないですもの。」
「………」
「……ありがとうございます。殺生丸さま。」
出会えたこと、命を救ってくださったこと、着物を仕立ててくださること、こうして美しい桜を見に連れてきてくれたこと………。
たくさんの感謝の気持ちを、静かにその一言に込めた。