鬼と妖怪
□夕空翔けるこの想い
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「すみません、この顔に見覚えはありませんか?」
「うーん。知らないねぇ…。」
「そうですか……。」
結局、邪見さまの書いてくれた似顔絵を手に、村に聞き込みに行くことになった。
邪見さまの書いた似顔絵は、かなりお父様に似ていて、
『どうじゃ⁉わしの隠れた才能なのじゃ‼わしすごい⁉』
と鼻高々な邪見さまに、彼の気の済むまで賞賛を送り、それから村に聞き込みに訪れた。
「まだ収穫無し…。」
『いらっしゃい!新作ぞくぞくはいってるよ!』
『わぁ!かわいい!この髪飾りください!』
『お兄さん、だんごでも食べていかないかい?』
とても賑やかで元気な村。
訪れてすぐそう思った。
この村に訪れるのは初めてだけど、なぜか初めてな気がしないのは、この村が故郷に似ているからかもしれない。
私の生まれ育った村も、いつも笑顔に溢れていて、素敵な村だった。
全然知らない村だけど、まるで自分の村が帰ってきてくれたみたいで、胸が締め付けられた。
私の故郷は、もう帰ってこない。
分かっているけど、未だ受け入れられない。
受け入れてしまっては、もう父に会えなくなってしまうかもしれない…。
そんな気がして、とても怖い。
「ね、きみ一人?かわいいねぇ。」
「え?あの…なんですか…?」
一人の男の人が声をかけてきた。
知らない人にいきなり褒められて、少し戸惑い気味の私に、どことなく距離が近い……。
彼は腰に刀を差しているところを見ると、武士だとわかった。
「さっきから見てたんだけど、人探ししてるのかな?」
「あ、はい!あの…この顔に見覚えはありますか?」
「ん?……あぁこの人か。あるよ?」
「本当ですか⁉」
「うん。その人のとこまで案内しようか?」
「え⁉⁉お父様は近くにいらっしゃるのですか⁉」
「うん、ついてきて。」
この村にきてやっと、お父様を知る人が現れただけでなく、なんとお父様はこの村にいるらしい。
『早くお父様に会いたい‼』
『お父様は怪我などしてらっしゃらないだろうか…』
彼は村近くの森に進んでゆく。
お父様はこの森の中に⁇
なぜ人里から離れたところにいるんだろう…。
「この奥に古いお堂があってね。彼はそこで療養しているんだ。」
「療養⁉お父様は怪我をしているのですか⁉」
人里から離れてらっしゃるのは、お怪我をして動けなかったから………。
一刻も早くお父様の病状を確認したい………!
目の前に現れたお堂はとても古く、誰も訪れていないのだろう、周辺は雑草だらけだった。
「お父様‼まいです‼ご無事ですか⁉」
お堂に続くふすまを開けると、そこには数人の男の人がいた。
「あの…父はどこに……きゃっ!」
突然、さっきまで案内してくれた男の人に背中を強く押され、お堂の床に倒れこんでしまった。
「馬鹿だなこの女!知らない男にのこのこついて来やがって」
「おぉ〜!かなりの上玉じゃないか!でかした!」
下品な笑みを浮かべて話す男の人たちに、ようやく自分が騙されて連れて来られたことに気がついた。
そしてこれから自分がどうなるのかも…。
「おっと、逃げんなよ?」
なんとか逃げようとするも、後ろから押さえられ身動きが取れなくなった。
「退いてください。人を騙すなんて最低です。」
男の人の力に敵うはずもなく、言動は気丈に振舞っていたけど、足はすくんで震えていた。
「女が偉そうに言うんじゃねぇ‼てめぇ、斬られたいのか⁉」
腰に差した刀をちらつかせる。
「ほら、脱げ!」
腕を掴まれ、着物を脱がそうと男の手が着物を掴んだ。
殺生丸さまから貰った大事な着物……‼
『助けて‼‼殺生丸さま‼‼』