鬼と妖怪

□攫われた鬼嫁 二
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「失礼いたします。まい様のご準備が整いました。」

「入れ。」

風間さんの待つ座敷へ招き入れられた私は、警戒しながら彼の前に立つ。

「ほぉ………なかなかだな」
 
「……。」

全身じろじろ見られて居心地が悪い……。

いつの間にか襖は閉められ、二人きりになってしまった。

「隣に来い。」

「……。」
 
言われるがまま隣に座る。
風間さんとの間にそれなりに距離を保ちつつ…。
 
「その艶姿。やはり我が妻に相応しい。俺の目に狂いは無かったな。」

妻にはならないと何度も言っているのに…。

「さっきから何をぶすくれている。口が聞けぬのか?」

「……。」

「まぁよい。酌をしろ。」

そう言って目の前の盆にある猪口を取り、私に付き出した。

言われるがままお酌をし、 猪口が空いたらまたお酌をし…… 

あれ……?

あんなに身構えていたけど、一向に何もしてくる気配は無い。
もちろん、何も無いことは有り難いけれど………。

「あの……。」

「なんだ」

「私にやってもらうことがあると言っていましたが…?」

「ふっ…それを自ら聞くことが危ないとは思わなかったのか?」

「あっ…!」

そうだ。自分から聞けば、手を出してくださいと言っているようなもの……!

「あの、違うんです、そのっ…」

「お前の想像していることはせぬから安心しろ。」

「えっ」

「なんだ?期待していたのか?」

「っ!そんなわけ!!」

「俺がやってもらうことと言ったのはこれだ。」

そう言って猪口を軽く持ち上げる。

「お酌……ですか?」

「そうだ。」

「え……?じゃあ、お酌をさせるためだけに私を攫ったんですか?」

「攫ってなどいない。お前は酌をさせたらまたあの場所に戻す。」

「え!?」

「あの駄犬がいない時を見計らってお前を取り返すなどと、そのような姑息な真似、誇り高き鬼であるこの俺がするはずが無かろう。」

彼が嘘をついているようには見えなかった。でも…本当に酌をさせるためだけに……?
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