鬼と妖怪
□攫われた鬼嫁 三
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「まぁあ!綺麗!」
「ここらでは有名だ。この池の蓮は本当に見事だろう。」
風間さんに連れられて、あの料亭を出た私は、少し歩いたところにある大きな池の近くまで来ていた。
殺生丸さまのことが気がかりだから、早くもと居た場所に戻りたいと言ったら、彼は少し不機嫌そうな顔をして、「戻らずとも奴の方が出向く。」
そう言って私を連れ出した。
「蓮の花言葉を知っているか?」
「花言葉……?」
「あぁ。西洋では花にそれを象徴する言葉がつけられている。蓮の花言葉は神聖。清らかな心。まぁ、国によっては他の意味を用いることがあるらしいがな。」
「なんだかこの花にぴったりですね。素敵…。」
白か薄紅の美しい蓮の花々が咲き誇るこの池そのものが、なんだか神聖な場所に思えた。
「花言葉など、女でもあるまい。くだらぬ…。」
「!…殺生丸さまっ!」
「やっと来たか、番犬。」
音もなく上空から颯爽と舞い降りた殺生丸さま。
よかった…どこもお怪我は無いみたい…。
「殺生丸さま!ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました…。」
殺生丸さまは、ちらと私を見ると、特に怒るわけでもなく無言で…。でも私の身を案じてくれている気がした。
「何のつもりだ。」
「何のつもりも無い。お前とはいずれは戦わねばならん。だが、たとえ我が妻であろうと、お前の居らぬところで連れ去るなど無様な真似はせん。」
「殺生丸さま、風間さんは私を助けてくださったんです。だから攫われたわけじゃなくて……」
殺生丸さまと風間さんが、互いに戦わなくてはならない相手だと知ってはいたけど、戦って欲しくはなかった。
「あのような紛いものをのさばらせているようでは、この俺と戦うなどまだ早い。」
「………」
「ひとまずまいをお前に預ける。だが…死なせることは絶対に許さん。邪魔者が居なくなったら…その時は、お前と刀を交えることにしよう。」
邪魔者って、奈落のこと……。
やっぱり、戦いは避けられないということ……?
「預けるだと?まいは貴様のものではない。」
風間さんは殺生丸さまの言うことを聞いているのかいないのか、私の方に向き直った。
「それまでしばらくの別れだ。我が妻よ、お前にこれをやる。」
「これ………!」
風間さんが私の手のひらにそっと乗せたのは、私が町で見かけて惹かれていた、小さな貝殻の中に入った紅だった。
いつの間に……。
見られていたことすら気がつかなかった……。
「ありがとうございます!大事にします。」
可愛い紅を貰って喜ばない婦女子はいない。素直に嬉しかった。
「お前には艶やかな赤が似合う。俺に嫁入りする時は、その紅を引いてくるといい。」
「ふふ。だから、嫁入りはしませんよ?」
「ふん…まぁ今はまだそれでよい。」
彼は少し微笑んでそう言った。
『そんな優しい顔もできるんですね…。』
そうして風間さんは、瞬きの間に去って行った。