鬼と妖怪
□湯けむり〜迷子の子猫ちゃん〜
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「じゃあ、ちょっとお湯いただいてきますね」
儂は、まいのいる温泉から少し離れた木の茂みに、殺生丸さまと湯の番をしていた。
「邪見………」
「なんでしょう殺生丸さま?」
「余計なことを言うな。」
あっもしかしてさっきのまいとの会話、殺生丸さまに筒抜け………!?
まずい……殴られるか…蹴られるか………!
咄嗟に身構えていたのに、特にげんこつが降ってくるわけでも、足蹴にされるわけでもなく、拍子抜けた。
いや、いつもそうなわけでは断じてないぞ!
じゃが………今の殺生丸さまはご機嫌が良いようじゃ。
「よかったですね、殺生丸さま。」
「………」
「また着物、着ると言っておりましたぞ」
「………」
「殺生丸さま……」
「……なんだ。」
「その……まいのこと……どう思ってらっしゃいますか…?」
「どう…だと?」
殺生丸さまの冷ややかな目が向けられる。
儂、地雷ふんじゃった!!!?
「お前もよく言っているだろう。人間の小娘……それ以外に何がある。」
「っそ、そうでございますよね!ただの人間の小娘にございます!」
あーっ!せっかく珍しくご機嫌がよかったのに…。儂のばかばか!
「で、でも、まいの方は殺生丸さまのことを特別に思ってるんじゃないかな〜っと……」
「なに…?」
あー。この食いつきよう……。
殺生丸さま…………やはり……。
「その……前紅を引いているとき、鏡を見ながら、『殺生丸さまは綺麗と思ってくださるかな……。』とつぶやいておりましたぞ!」
「……声真似をするな。似ておらぬ上、気色が悪い。」
「も、申し訳ございません!」
そう言いながら殺生丸さま……。
儂は知っているのですよ……。
殺生丸さまが照れているとき、その尖った耳がぴくぴくなることを……。
たまにまいを襲ってくる妖怪を、殺生丸さまが成敗した時(いや、何故かあの娘よく妖怪に狙われるんじゃよなー)、
『殺生丸さま、かっこいいです!』とか
『雄々しい殺生丸さま…♡』とか言いよるもんだから、その度に殺生丸さまのお耳がぴくぴくなるのを儂は気がついたのじゃ…。
今もどうじゃ…その冷めた言動とは裏腹にお耳はぴくぴくされておる…。
心なしか赤くなっているように見えるのは、儂がそろそろ老眼じゃからだと信じたいわ………。
「きゃああああ!!!」
突然温泉の方から、まいの悲鳴が聞こえた。
すぐさま目にも止まらぬ速さで行ってしまわれた殺生丸さま。
きっと妖怪が現れたのであろう。
殺生丸さまがいつものように成敗してくださって、まいが殺生丸さまに賛辞を送り、そして殺生丸さまのお耳がぴくぴくする……
一連の流れを予測した儂は、『むしろ邪魔しない方がいいのかなぁー。』と思いながら、心なしかゆっくりと歩を進めるのであった。