鬼と妖怪
□湯けむり〜迷子の子猫ちゃん〜2
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「あれっ。着いたのでしょうか?」
周りは石に囲まれていて、おそらく井戸のようだけれど...。
一瞬光に包まれたかと思ったら、その後地に足が着く感覚がしたから、たぶんここはさっきの井戸とはまた違う井戸。
そういえば、連れてきてくれたはずのかごめちゃんはどこだろう...?
先に井戸を出たのかな?
「かごめちゃん?もう上にいるのー?」
ここから出るためには登らないといけないけれど...なかなか難しそう。
まさか向こうの古井戸に繋がっているのも井戸だとは思っていなかった。
「最初にかごめちゃんに聞いておけば良かった...」
「ねぇ、そんなところで何してるの?」
突然井戸の上から話かけてきたのは、かごめちゃんでは無く、全く知らない男の人。
「あ、あの、井戸から出られなくて...。」
「ふーん。まさか井戸に落っこちちゃうなんてマヌケな子、この世にいるとはねー。」
え...なんだろうこの人。
ちょっと感じが悪い。
「総司。彼女も落ちたくて落ちたわけじゃないだろう。すまない。総司がひどいことを。」
さっきの男の人の横から、また別の男の人が現れた。
さっきの人は、『そうじさん』という人みたい。
「いえ、大丈夫です!あの、出来れば縄か何か降ろしてくださいませんか?」
「いいよ。仕方ないから救急車よんであげる。」
「きゅうきゅうしゃ??」
「この場合、救急ではなく消防を呼ぶのが適切ではないか?」
「まぁどっちでもいいんじゃない?はじめくんはいちいち細かいなぁ。」
そうじさんの横にいるのは、『はじめさん』というらしい。
このお二人、見た感じとっても間逆の性格のよう。
程なくして、私は地上に出られた。
なんだか、色んな人にご迷惑をかけたようで、いたたまれなかった。
「あの、お二人ともありがとうございました。」
「気にするな。あんたに怪我が無くてよかった。」
「一体どうやったら井戸に落ちちゃうのか教えて欲しいくらいだけどね。ところで...君、名前は?」
「あっ、申し遅れました。私、雪村まいといいます。」
「まいちゃんか。僕は沖田総司。総司って呼んでくれてもいいよ?」
「俺は斎藤一だ。」
少し意地悪な沖田さんに、誠実そうな斎藤さん。
お二人とも端正な顔立ちをされていて、きっと女子なら誰もが見惚れてしまいそうだななんて思った。
「あの...この井戸の近くで、私と同じくらいの年頃の、緑の短い着物を着た女の子を見かけませんでしたか?」
地上に出られたのに、かごめちゃんの姿はどこにも無くて、もしかしたらはぐれてしまったのかもしれない。
自分から見てみたいと言って来たけど、知らない世界に一人ぼっちになってしまったのではと、とても不安になった。
「見なかったけど?てゆかさ、なんで君着物着てるの?」
「えっ?なんでと言われましても...着る物はこれしかありませんし...。」
おかしな人...。衣を纏わないなんて、丸裸でいろということ?
「普段から着物を着ているということか。良い心がけだな。着物は確かに背筋が自然と伸びるから洋服よりも好ましい。」
洋服...!
文献で少しだけ読んだことがある!
でも、ちょっと様相が違う気が...。
確かに彼らが着ているものは、私がよく知る着物では無かった。少し着こなしは違うけれど、二人とも同じ形の着物を着ている。
かごめちゃんも不思議な着物を着ていると思っていたけど、こっちではこれが普通なのかな?
「いつも着物ってことは、もしかして君ってすごく由緒正しいお家柄だったり?」
「えっと...。私の家は...。」
私の家は奈落という妖怪にやられてしまって...だなんて言ったら驚かれるかな?
そもそもこの世界には妖怪は存在しているのかすらわからない。
「総司。まいが困っている。やめてやれ。」
「はいはい。あ、そうだ。せっかくだし、連絡先交換しない?僕、君のこと結構気に入ったかもだし。」
「え?」
「軟派なことをするな。まだ出会って間もない女子にそのような...。」
「とりあえず、LINE教えてよ。」
「らい...ん??」
「え、まさか君、LINE知らないの?」
「は、はい...。」
らいん...なるものはそんなにこの世界では常識なのでしょうか...?
「スマホ出して。LINEのアプリ僕がダウンロードしてあげる」
「えっと...すまほって...?」
「嘘でしょ!?スマホ持ってないの?あ、もしかしてガラケー派?」
「が、柄???」
「....君、わざとでしょ?そんなに僕と連絡先交換したくないんだ?」
「総司、まいを責めるのはお門違いだ。」
「あの、すみません!!私、がらけー?もすまほも持っていません。」
「ほんとに?」
「本当です。いつも誰かと連絡をとるときは文(ふみ)を書いていますので...。」
「文!?...ぶっ...あはははは!今時文って!!君っておもしろいね!?」
「総司、笑いすぎだ。なかなか古風で良いではないか」
この世界では文を書くのはそんなに笑われるほどおかしな事なのかな?
「私、知り合いを探したいのでそろそろ行きます...。」
「あ、拗ねちゃった?ごめんごめん。じゃあ、僕の家の住所と、あと通ってる学校の名前書いた紙渡すよ。気が向いたら来てよ。」
「はぁ。」
二人と別れ、とりあえず周囲にかごめちゃんがいないか探しに出た。
どうやら、井戸は桜坂神社という神社の境内にあったみたい。
広い境内をあてもなく歩き回る。
彼から手渡された連絡先が書かれた紙をそっと袖元にしまう。
「私にはそもそも読解不可能でした...。」
住所も全く検討がつかないし、彼の通う学び舎の名前は分かったけど、それがどこにあるのかはやっぱり分からない。
「薄桜学園...か。」