301 ピンクルーム

□きよしこのよる
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『イブに仕事だぜー?
大人ってアッタマおかしいよなw
ロマンチックのカケラもねえよー』

『ボクがいるじゃん』

『どこがロマンチックなんだよ!笑』



一昨日の、
山ちゃんの声を思い出す。

ちぃに悪態をつきながらも、
嬉しそうに笑ってた山ちゃん。

今日は、
ちぃと一緒に収録してる山ちゃん。
イブなのに。
こんなにきれいな
クリスマスイブなのにね。



俺は、一人だよ。

山ちゃんは、
ちぃと一緒なんだよね。



どこかで鐘が鳴った。
電子っぽいな。

街は星空みたいな
イルミネーションで飾られて、
赤と緑でクリスマス一色。
山ちゃんと俺の色だね。

人波に押し流されて、
あてもなく歩いてみてる。
幸せそうな家族とか、カップルとか、
ああいう人たちって、
なんでこんなに輝いてるんだろう。

今笑ってる人たちは、
きっと、今日という日と
天の神様に祝福されてるんだ。

俺は?

みんながこんなに楽しそうだと、
俺、
どんどんネガティブになっちゃうな。

今頃、山ちゃんも笑ってる?
ちぃと一緒に笑ってるの?

ほんとはこんなこと、
考えたくないんだけど。

だって、山ちゃんは、
みんなのものだから。

山ちゃんくらい輝いてる人って、
俺、見たことないかもしれない。

パパでも無理だと思う。
ごめんパパ。

英語すごいとか、
ギターすごいとか、
山ちゃんは簡単に
俺を褒めてくれるけど、

山ちゃんは、
すごいっていう言葉じゃ
足りないんだ。

神様かもしれない。

このイブの夜に、
一人の俺を祝福してくれる
たった一人の神様。

だったら、クリスマスは
山ちゃんに祈りを捧げる日、
かもしれないね。

山ちゃんは、
みんなに平等に、
その光り輝く笑顔を
振りまいてくれるんだ。

山ちゃんは、
生きとし生けるものすべて、
光で包んでくれる、
みんなの神様。

俺が独占したいだなんて、
わがままだよね?

もしそんな、
道を外れたような
欲望を抱いたら、

山ちゃんは俺を
地獄の底に突き落とすかな。
厳しい罰を与えるのかな。

山ちゃんのくれる試練なら、
喜んで受け入れるって、
それくらいの覚悟は
あるけどね。



道沿いの雑貨屋に立ち寄って、
山ちゃんが喜びそうな
プレゼントを探してみる。

この形、
この匂い、
この感触、

触れるもの一つ一つに
山ちゃんを重ねて、
丁寧に選びとっていく。

次の仕事で会ったら渡そう。
誰にも気づかれないように、
そっと、渡すんだ。

山ちゃんを特別扱いしてるって、
気づかれないように。
誰も傷つけないように。

ちぃにも、知られないように。

山ちゃんは特別だから、
特別扱いしたって
当然なんだけどね。

山ちゃんを特別に思ってるのは、
俺だけじゃないから。

この世界にいくらでもいる。
山ちゃんを、
神様だって思ってる人。

こんなに近くで
その光を享受できるなら、
これ以上の幸せはないんだから。

なのに、
今ここにいないだけで

こんなに切ないのはなんでだろう。

会いたいって思ってる。
そばに来てほしいって思ってる。

ちぃの隣なんかじゃなくて、

俺のとこに来てって、
思ってしまってる。

こんな俺は罪人だね。
ごめんね山ちゃん、

そう呟いて、
腕時計を買った。



来年のこの日も、
山ちゃんはここにいない、
のかな。



胸がきゅうっと狭くなるよ。
ちぃじゃなくて、俺を見てよ。

ちぃみたいに
上手く甘えられないけど、

俺だって、誰より
山ちゃんを愛してるんだよ。

こんなにきれいな街が、
切なく潤んで見えるよ。

君が、いないから。



スターバックスで
季節限定のラテを買って、
窓際に座って外を眺める。

ため息が出るほど、
きれいな夜だな。

それは、ここにいる
全員の幸せを集めてるから?

だったらごめん、
俺のぶんだけ欠けてるね。



スマホが震えた。

表示される、山ちゃんの名前。
LINEのメッセージ。

『収録終わった!』

『これからクリパやるよ!』

『俺ん家で、』

『知念とゆうてぃと隆もいるけど、』

『圭人、来る?』


そう、神様は、


『もちろん!』


生きとし生けるものすべてを、
平等に照らしてくれる。


(了)

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