0と100
□一緒に年越し
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年越しそばを食べ終えて、テレビを見ながら手持ち無沙汰にしていた年末。向かい側に座る幼なじみは、彼の大好きなラノベを読んでいた。
「ねーみかん食べたい」
「...自分で取って来いよ」
千尋ちゃんはそう言って嫌そうな顔をしながらもこたつから出て台所へ向かう。持つべきものは皮肉屋だけど面倒見の良い幼なじみだなあとつくづく思った。みかん取ってきてくれるし。「寒...」と呟くかすれた声が台所から聞こえた。さっき彼の足を見て気付いたけど靴下を履いてなかった。だから寒いんじゃないのと言いたくなったけど、私も履いてないことを思い出してやめた。
「ん」という声の方を向くと、未開封の袋に入ったみかんを渡された。
「ありがと...冷った!」
「冷蔵庫に入ってたんだよ」
確かにみかんも冷たいけど、わたしが驚いたのは彼の足の冷たさだ。こたつに入ってきた瞬間わたしのふくらはぎにぴたっとくっつけてきた。嬉しいような恥ずかしいような、七分丈ジャージを選んだ今朝の自分を戒めたいような褒めたいような、そんな微妙な気持ちになった。
「めっちゃ冷えてるじゃん、冬の素足とかありえん」
「お前俺より素足じゃねえか」
「...千尋ちゃん家の暖房に頼りたくて」
返事はなかった。既に手元のライトノベルに集中してる。年末の特番見ないでそれ読むとかどんだけ好きなの。趣味って強いなあ。
こたつでガ〇使見ながらみかん食べるとかいかにも大晦日だなあ、としみじみと考えながらみかんを食べていると、向かい側から「食わせろ」と聞こえてきた。自分でむいてと言おうかと思ったが、わざわざ裸足で持ってきてくれたし、お礼に食べさせてあげよう。
「受験生が呑気にみかん食ってていいのか」
「今日ぐらい休憩しても大丈夫だよ」
ふざけ半分でみかんをあーんしてあげたんだけど結構嬉しそうで意外だ。かわいいな。
「おばさん良いの買えるかね、ああいうとこってパワー必要だし」
わたしの父が仕事なので、わたしは今黛家にお邪魔させてもらってるのだが、黛母は福袋争奪戦に繰り出してるし黛父は酔いつぶれて寝室に運ばれたしで、実質千尋ちゃんと2人きりのような気がする。彼と一緒にいるのは楽しいから結構嬉しい。良い年越しだ。
「...わたし、洛山受かるかなあ」
チャンネルを変えて除夜の鐘を聞く。あとほんの少しで今年が終わる。
「俺で受かったんだから余裕だろ」
「さっきは勉強しろみたいなこと言ったくせに、そもそも千尋ちゃんめっちゃ頭いいじゃん」
「良かねえよ」
めちゃくちゃ良いくせに。今度超絶応用問題でも質問しよう。
温まった彼の足が動くのを感じた。太ももに少し当たってくすぐったくて、体をよじった。
「...このままこっちにいていい?」
「布団無いだろ」
「こたつで寝る」
「ウチの電気代を奪って行くのは許さん」
「じゃあ一緒に寝る?」
「...戻って1人で寝てくれ」
「冗談だし」
カウントダウンが始まる。受験勉強大変だったけど今年もいい年だったなあ、なんて呑気に考えてたらすぐに年が変わった。
「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」
幼馴染みはいつもの淡々とした表情で、ああ、と言った。今年も仲良くできますように。