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□他愛を吸収
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前期中間考査が終わり、生徒達が学校祭の準備に熱を入れ出す6月末。クラスの展示の準備で遅くまで残り下校していたら、道の途中で赤司君を見つけた。背が高くて黒髪の美形の人と何か話をしている。話を割って入り込むのもなんかなあと思い、何も言わずにその横を通ろうとしたら、あちらから声をかけられた。えっ嬉しい。

「橘さん、今から帰るのかい」
「うん、クラスの手伝いしてたら遅くなって」

黒髪の美形さんが驚いた顔でわたしを見ていた。目が合ったので会釈をしたら、にこっとしてくれた。綺麗な人だなあ。

「もう真っ暗で危ないよ。よければ一緒に帰ろう」
「え!でも...」

ちらっと黒髪美形さんの方を見やると、赤司君が納得したような顔で「彼との話はもう終わったよ」と言った。ほんとにいいのかな。すると、黒髪美形さんが口を開いた。

「大丈夫よ。それより、女の子がこんな時間に1人で歩くのは危ないわ。征ちゃんに送ってもらいなさい」

口調がオネエさまだ!すごい、オネエの人初めて見たかもしれない。でもこの人だと違和感ないなあ、美人さんだからかな。

「ありがとうございます...えっと、先輩...さん...?」

先輩さんってなによ、と彼はふふっと笑った。笑い方が上品で、わたしより女らしいなあと思った。見習わなきゃ。

「実渕玲央よ。よろしくね、つかさちゃん」
「え!なんでわたしの名前をご存知でいらっしゃる!」
「黛さんの幼なじみなんでしょ?男バス1軍の中じゃ有名よ」
「そうだね。僕もよく橘さんの話はするしね」
「なんか照れます...!赤司君はどういう話してるの?」
「この前購買で“お金が無い!何も買えない!ヘルプミー!”って叫んでいたこととかかな」
「恥ずかし!!やめてよ超恥ずかしい!!!」

赤司君と実渕さんはくつくつと笑ってる。仕方ないよあの時は46円しかなかったんだよ...!

「じゃあアタシ寮だから」
「じゃあね、玲央」
「あっ!さよなら実渕さん!これからよろしくおねがいしますね!!」

綺麗な笑顔を浮かべながら手を振る実渕さんは、紳士というより淑女という方が合っていた。

「帰ろうか。家はどのあたり?」
「××駅の近く。電車通なんだ」
「じゃあそこの駅まで送るよ」
「えっ、いいよいいよ、赤司君が遠回りになっちゃうよ」
「僕の家はその駅からでもそう遠くないさ。それに玲央も言っていたが、夜の女性のひとり歩きは危険だ」
「えーでも...うーん、じゃあ...お言葉に甘えて」
「ふふ。じゃあ行こうか」

歩き始める時、さりげなくわたしを車道の反対側にしてくれた。紳士すぎる。

「そういえば実渕さんって男バスなんだ」
「ああ。レギュラーで副主将だよ」
「へー、権力すごそう」
「はは、権力か」
「でもそれだと赤司君の方がすごいか」
「すごくないさ」
「いやすごいよ!だって生徒会長で男バスのキャプテンなんだもん!」

こんな感じに、赤司君とたわいないことばかりを話していたら、あっという間に駅についた。楽しい時間っていうのはあっという間だ。そこに会話があってもなくても。

「ここだよね」
「うん。送ってくれてありがとう」
「全然さ。じゃあね」
「うん、ばいばい」
「...あと、ひとついいかい」
「なに?」

電車ギリギリだな、間に合うかな、という焦りはあるけど、赤司君の話を聞かないで帰ったらバチが当たりそう(尊過ぎてね!)なので耳を傾けた。

「想いは口に出すべきだ」
「...うん?」

よく分かんなかった。赤司君は何を言いたかったんだろう。まさか千尋ちゃんのことじゃないよね。まさかね。

「じゃあこんどこそじゃあね。引き止めてすまない」
「いや、全然だよ。じゃあね」

夜道を赤司君が歩いて行くと、暗闇の中に鮮やかな赤色が映えてひとつの絵になるなあ、と感動した。

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