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□乙女の助言
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学校祭やら何やら、楽しいことが次々と終わってもはや8月下旬。夏休みがあと少しで終わることに危機感を感じまくってるわたしは、最後の悪あがきをするため羽を極限まで伸ばそうと、ただただ遊びまくっている。今日はひとりで買い物に来た。誰かと一緒に出かけるのももちろん好きだが、ひとりで出かけるのも気楽さとか自由さとかを感じられるから結構好きである。
今ちょうど服を見ていた。わたしは身長があるし、結構ボーイッシュな格好をよくするので、メンズの服屋をたまに見る。キャッキャウフフなレディースフロアからイケイケうぇーいなメンズフロアに行ったところ、見知った姿を見かけた。もしやあの後ろ姿は...と近くまで歩いて行ったところ、あちらが気づいてくれたようだ、声をかけてくれた。

「つかさちゃん!奇遇ね〜ショッピング中?」
「はい!お久しぶりです」

実渕さん、いくらオネエといっても私服は普通に男物なんだ、と変な感心が生まれた。
すると実渕さんは、悪戯っぽいニヤニヤした顔でこんなことを聞いてきた。

「女の子がメンズ見るなんて、誰かにプレゼント?」
「へ!いや、ふつうに自分用にと」

実渕さんは「ふ〜ん」と至極楽しそうな顔でわたしを見つめた。いや相手いませんし。やめてくれやめてくれ。

「最近黛さんとはどうなの?」
「はあ!??いや、どうってなんですか!!ただの幼なじみですよあの人は!!!」
「どうだか」

何を言ってるんだこの人は...!でもわたしが千尋ちゃんを好きなのは事実だし。もしかして分かって言ってらっしゃる?まさかね!

「つかさちゃん時間ある?」
「あ、はい、たくさん」
「じゃあ1階のカフェでお茶しましょ!アタシの奢り!」
「え!?いやいや自分で出しますいいですいいです」
「もう、女の子なら潔く奢られなさい!じゃあ行きましょっ」

服見たかったのに!まあでも帰りに見ればいいか。
それにしても実渕さんとお茶って緊張する。先輩と何話せばいいんだろ。部活やってないからそういうの慣れてないし。うーん。でも実渕さんの奢りだしいっか。
わたしたちはエスカレーターを下って、全国チェーンの某喫茶店にやってきた。注文をしてすぐに飲み物をもらい、2人用の席に向かい合って座った。

「さ、ガールズトークよ」
「えええ〜?話すことないんですけど」
「んもうとぼけないでよ!」

あ〜じれったい、と目の前のオネエさんは漏らした。この人、ほんとに乙女だなあ。ていうかわたしが千尋ちゃんのこと好きな話、どこらへんまで漏れてるんだ。赤司君も気付いてるっぽい気がするけど。

「そんなんじゃ他の女子に取られちゃうわよー」
「はっ!???!?いやありえませんて!!!!!!」

言ってからしまった、と思った。実渕さんはいっそうにやにやしている。くそ、カマかけられた...!

「やっぱ好きなんじゃないの」

実渕さんはうふふと綺麗に笑った。いやあほんとに美人だな、優しいし。いい人だ。
こんないい人にだったら本心話してもいいかな、と気持ちが緩んで。まあいっかどうにかなるよね!という激的なほどの楽観主義から、つい堅くしていた口を開いてしまった。

「やっぱ人気あります?...あの人」

実渕さんはびっくりした顔をした。こんなに早くわたしが折れるとは思ってなかったんだろう。

「そーねー、いくらウスい人っていっても、フツーにイケメンだしレギュラーだものね。ファンが数人いてもおかしくないんじゃない?アタシは好みじゃないけど」

ずぎゃーんと胸を打たれた気がした。あの朴念仁にファン!?ありえないって信じてたのに!でも優香もよく見たらかっこいいって言ってたし、フツーにどころか超かっこいいし、いて当然なのか...?なんか焦る。もやもやする。てか実渕さん、タイプって。恋愛対象男の人なのか。

「...告白、されたり、とか」
「う〜ん...今のとこそういう話聞いたことないけど。でもあの影の薄さだわ、誰も知らないところで何かあったりしてたのかも」
「ええええ!!やめてくださいよ!え!やだあ!!!」

実渕さんがくつくつ笑い出した。笑い事じゃないですよ!あーなんかすごいショック。ショッキング。あの人を好きなのはわたしだけじゃないかもしれないんだ。千尋ちゃんに彼女できたって知った時と似た気分。あーもう。

「つかさちゃん告白とかしないの?」
「...する訳ないじゃないですか」
「見てる感じ見込みあるけどねえ」
「無責任ですねええ」
「ふふ、だって面白いもの」
「ひっ人の恋路を面白いなんて!非道ですか!」
「そういうとこが面白いのよ」

そういうとこってどういうとこ!?というわたしの心の叫びもむなしく、実渕さんは相変わらずにやにやだったりくつくつだったり、とにかく楽しんでいらっしゃる。

「関係変えるのも嫌だし、わたしは今のぬるい仲良しな関係で満足してるし。このままでいいと思いませんか」

わたしがそう言うと、実渕さんは、仕方ないわね、とでも言いそうな表情で言葉を紡ぎ出した。

「それでもいいんじゃない?だって何をどうするかはつかさちゃん次第よ。これからをどうしたいかだってね。全てはほんの少しの勇気で変わるわ、だからがんばってとしか言えない。私がアレコレ口出せることじゃないもの」

テーブルにうなだれていたわたしの頭に、軽やかなぬくもりが伝う。実渕さんが頭をぽんぽんとしてくれた。
千尋ちゃんのぽんぽんとは違う、お姉さんのような、お母さんのような、母性的な優しさを感じるぽんぽんだった。
胸がじんわりした。少しうるっとさえ来た。

「ありがとうございます...」
「んふふ、がんばってね」

それからわたしたちは、まさにガールズ!的なガールズトークをした。化粧水とか、お菓子とか、洋服とか、髪型とかの話。洛山バスケ部がこないだあったインターハイという大会で優勝したという話も聞いた。すごいな、すごい人なんだな、実渕さんも、赤司君も、千尋ちゃんも。
わたしもちゃんとがんばらなきゃ。ぎらぎらした闘争心のようなものが胸に湧いてくるのを感じた。

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