0と100

□告白と告白
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洛山高校バスケ部は今日帰ってくると聞いた。いったん学校に行ってから解散擂ることも聞いた。ならあの人はいつもの駅に来る。わたしはそこで彼を出迎える。そして気持ちを伝える。待つ時間がじれったくて仕方なくなりそうだけど、そこらへんはもうどうでもいい。振られるにしろ振られないにしろ早くこの嫌なドキドキを失くしてしまいたい。
というわけで駅に来た。人混みが割とすごいけど多分見つけられる。なんかオーラとかで。大丈夫。
そろそろ時間のはずだ。首を動かす回数はいつもの5割増。探す。あの人を探す。とにかく探しまくる。
そしてとうとう見つけた。自分的には5時間くらい経ってたと思う。やっと。やっと伝えれる。

「千尋ちゃん!!」

彼がわたしに気付いてくれた。目を見開いていた。驚いたんだと思う。

「つかさ」

まばらに歩く人々をうまくよけて、わたしの近くに来てくれた。
ずっと待ちわびてた時が来たのに、早くあの言葉を言わなきゃいけないのに、自分の心臓の音が馬鹿みたいにうるさくて、その振動が喉にまで響いてきて何も言えない。ばくばくばくばく、ものすごいスピードで大量の血が体中を巡ってる。
いや、ここで怖気づいたら駄目だ。一生ダメ女としてのレッテルを貼られざるを得ない。もうあれだ、開き直れ。当たって砕けろ橘つかさ。ゴークレイジー橘つかさ。

「あ〜っ...の〜ですね千尋さん」

何コイツ?みたいな顔で見られた。さん付けにしたのが間違いだった。いやでもさん付けにせざるを得ない。てかその顔ムカつく。こっちはめっちゃ頑張ってんのになんだその顔。もっと真剣な顔しろ朴念仁!!
自分の中の糸のような何かがぷつんと切れて、もう全部どうでもいい!人類みんな死ね!って気持ちになってきた。
恋愛めんどくせえ!!さっさと終わらせる!!!

「行くよ!??」
「お、おう」


「好き!!」


×××


コイツ今何つった。いや聞こえてたんだが、どうも信じられない。その二文字を言う瞬間にしてはキレ気味だし、ムードもへったくれもない。
本当につかさは俺のことを好きなのか?俺はつかさが好きだ。重々自覚してる。これは両想いだと認識して本当にいいのか?多分いいはずだ。つかさは俺を好きと言ってくれた。だけど、とてもじゃないけど信じられない。こんな上手くいく恋愛は二次元やドラマの世界だけのものだ。もしかしたらドッキリかもしれない。とにかく、つかさに告られたという実感は全くない。
そもそも俺はウィンターカップでいろいろあって傷心中だというのに、なんだこのタイミング。あーもうめんどくせえ。とりあえず家帰って寝てから考える。

「...決勝で負けて結構落ち込んでるからお前の意図を考えられない」
「うるせえそんなんどうでもいいわ!さっさと答え出せ!」

コイツこんな気強かったか?ぐわっと胸倉を掴まれた。

「わたし言ったじゃん!好きっつったじゃん!告ったじゃん!」

つかさが急に泣き出した。いや待て、泣きたいのはこっちだ。

「分かった、聞いた、だから泣くな」
「だって千尋ちゃん意味わかんないとか言ってんじゃん〜」

うえええ、と子供のように泣きじゃくるつかさ。周りの視線が痛い。

「とりあえず出るぞ」

そう言いつかさの腕を掴んで駅の外に出た。


×××


外の空気はひんやりしてて、蒸発しそうなくらいに火照ったわたしの全身を冷ましてくれた。と同時に我に返った。告白して逆ギレして泣くとか、千尋ちゃんに呆れられたかな。

「つかさ」
「はい」

人気のまったくない路地裏に来たみたいだ。真剣な顔で名前を呼ばれたから、ついかしこまって返事をした。

「お前ほんとに俺が好きなのか」
「だからさっき言ったじゃん」

泣きべそをかいてるせいか、ふてくされたような声しか出なかった。たぶん顔もひどいだろう。あー恥ずかし。

「返事は?ノーなのイエスなの?」

すると千尋ちゃんは都合の悪そうな顔で目をそらした。
これは駄目なやつかな。ノーって言われちゃうのかな。
そう考えたらまた涙が溢れてきて、本日2度目の大泣きをした。


×××


待てコイツなんでこんな泣くんだ。やめろ泣くな人が来る。せめてもう少しおしとやかに泣け。

「おい泣くな」
「だっでさ、だっでさ〜ノー言われそうだもん、その顔はノーだもん〜」

やっとのことでこう言い、再びびええと泣き出した。あーおもしれえ。ひでえ面。コイツはほんとに俺を飽きさせない。

「誰がノーって言うかよ」

するとつかさの泣き声は少しおさまった。潤んだ目とハの字になった眉は小学生の頃の泣き顔と変わらない。

「俺もつかさが好きだ」
「...じゃなんで目そらしたの」

うれしい、とか言えよそこは。しかも恥ずかしいとこ突いてくるし。ほんっとかわいくねえ。

「...先に俺から言いたかったんだよ」

つかさはすっかり泣きやんだ。そしてぐちゃぐちゃになったその顔は、一瞬のうちに笑顔になった。


×××


言いようのない幸福感。どうしようもなく幸せ。幸せ、幸せ。
胸の奥がムズムズしていてもたってもいられなくて、隣を歩く千尋ちゃんの腕に抱きついた。

「好き」
「...さっき聞いた」
「好っきー好き好き、これからよろしくー」

千尋ちゃんの耳がほんのり赤くなった。あーもう全部好き。

「ウィンターカップの話してよ」
「嫌に決まってんだろ」
「聞きたいです!バスケマンたちの青春はいかに繰り広げられたのか気になります!」
「お前鼻水かめよ、中耳炎なるぞ」
「話逸らさないでよ!!」

今まで悩んでたのが嘘みたいに幸せだ。そこを通る人全員に優しくしてあげたい。この幸せがずっと続けばいい。この人の隣にずっといたい。

「千尋ちゃん」
「何だ」
「...うへ、なんでもない」

少し照れ顔の幼なじみはわたしの頭を小突いてきた。好き、ずっと好き。

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