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「お前俺とイチャイチャしたくねえの」
「はい?」
今日は大晦日で、父は案の定仕事で、千尋ちゃんと2人でこたつでうだうだして。そんな毎年恒例の定番年越しを満喫していたら、向かいに座る幼なじみが爆弾発言をした。
俺とイチャイチャしたくねえの?って、どこの俺様だよ。別に許さないわけじゃないけど。言ってる本人かっこいいし。
「あの日しか俺にくっついてこなくね」
「あーまあ...そっすね...」
あの日とは、わたしが彼に支離滅裂な告白をした日。確かにあの日、わたしは彼の腕に抱きついた。けどその日のことを思い出すだけで恥ずか死にそうになるから、それを掘り起こすのはやめてほしい。
「腕でもなんでもひっついていいんだからな」
「えー、イチャイチャしたいんだ」
わたしの緩みきった頬が気に触ったのだろう、生ゴミを見るような目で見られた。おっかねえ!
「お前案外淡白だよな」
「そうかな。フツーじゃん」
「女子はもっとベタベタするもんだと思ってたが」
「それって元カノ比?」
わたしがこう言うと、千尋ちゃんはさりげなく目をそらした。急にムカついてきたぞ。よしさっそく甘えてみようと、こたつから出て彼の背後に回り、背中に抱きついた。相変わらず細マッチョ。
「...急だな」
「年越しだし?」
「関係ねえ」
すると彼はわたしの腕を自身の体からはがして、こっちを向いた。うわ距離ちけえ。
「何」
「...キスする」
「は!?」
「年越しだし」
「関係ないし!」
いくら酔いつぶれているとは言えど、千尋ちゃんのお父さんが隣の部屋にいるし、1年の終わりにこういうふしだらなことをするのはなんとなく罰当たりな気がする。いやでもキスなんてまだまだか?世の中にはもっとすごいことが...あっ考えたら恥ずかしくなってきた、恥ずい。
「顔あっつ」
「イヤこれは違います」
「何だよ」
「あー...いや...違わない...」
目線をどこにやればいいのか分からなくてキョロキョロしていたら、「目閉じろ」と低い声で言われた。うわあついに来る!と目を瞑り心臓の音をばくばくさせながら待機していたら、一瞬唇に柔らかいものが触れた。え、もう終わったの。
「ん」
「...一瞬だった」
「昔も同じこと言ってたな」
昔?と首を捻ると、千尋ちゃんは半ばキレ気味に「は?覚えてねえの?」と言ってきた。え、なんだ。
「テレビ見てたらキスシーン出てきて、お前それ見てやってみたいって言ってたろ」
しばらく記憶の奥底を手探っていたが、完全に思い出した。小学校低学年の頃の出来事だ。そっかファーストキスはあれだった。くそ恥ずいんだけど。
「そうでした」
絶対顔赤い。なんだこれなんだこれ。こんな恥ずかしい年越し初めてだ。
「次はレベル上げるか」
「なんのレベルですかね」
「舌入れる」
「ノオオオオ!!!」
待ってこの人急過ぎない!?なんでいきなりそっちになるの!??
「ほらこっち向け」
「断固拒否!」
目線をぎょろぎょろさせていたらふと時計が目に入った。もう12時59分だ。あと1分で今年が終わる。
「待って待って!今もう59分だよ」
「相変わらずムードねえな...」
千尋ちゃんは明らかにがっかりした顔をした。ごめんねわたしはイチャイチャよりも年越しを優先する。
「あー、変わった」
「ああ」
「今年もよろしくね」
ああ、とぶっきらぼうに言った幼なじみは、すぐさまニヤリと表情を変えた。
「じゃあするか」
「新年早々ふしだらなことはよくないぞ」
「いいからするぞ」
「ヒィー待って待って待って」
幼なじみはニヒルに笑っていた。
ちなみにわたしの人生における初めてのディープな接吻は、頭がパーになりそうなほどやばかった。