短編

□さよなら
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せつない。こんなにせつないのは初めてだ。それだけ私は、いつも適当だったんだ。男からの好意を自分の良いように利用し、役に立たなくなってきたら突き放し、そして他の男に乗り換える。それのくりかえし。
桃井さつきを手に入れられない。手に入れるためにどうしたらいいか分からない。でも好き。女を好きでいても私に利益はない。彼女は何もくれない。いちども私だけを見てくれたことがない。でも好き。穴と穴では本物の快楽は得られない。彼女は私を気持ちよくしてくれない。でも好き。ああ、好き。好きだよ、はらわたが煮えくり返るほどに好き。なのに、あなたはなんで、私を拒むの。
「私ね、桃井さんのことが好き」そう言ってキスをした。舌を動かして5秒ほど。そしたらあなたは、まるで生きものの死体を見ているかのような、驚きと不快感が混じった顔で私を見たね。折角の綺麗な顔が歪んだ。私が歪ませた。
桃井さんは、何も言わずに走り去った。私は呆然と立ち尽くした。授業開始のチャイムが鳴った。
私はもう、何をやる気も起きなくて、鞄も持たずに学校を出た。どこにも向かわず、ふらふらと、ただふらふらと歩いている。
桃井さん、今私ね、あなたのことしか考えらんない。その鮮やかな桃色が網膜に焼き付いて消えない。責任とってよ。私のものになってよ。

声をかけてきた男をホテルに誘って、薄っぺらい快楽に溺れた。いつかはあなたとこうしたかった。

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