短編

□可愛い奴
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「…俺とお前は3つも違うんだな」
「何だよいきなり…しかも「も」って何?」
「………」

風は止む気配もない。だが太陽を隠す雲は一つも姿を見せない。
少し遠くで(場所はカプセルコーポレーション)皆がバーベキューをしているというのに、
二人は木の下でただ空を見つめていた。二人は二人だけの世界に入ってしまっていた。
しばらくは話しかけられても反応しないだろう。賑やかで大きな声がよく響いた。それでも、二人の耳には入らない。

「…もしも」
「…えっ、ああ…うん」

何だか今日のベジータは変だなあと思いながら、曖昧な返事を返す。

「…俺が、お前と何もかも一緒だったら何か変わっただろうか」
「え、それって…」
「俺も下級戦士として生まれて貧乏で家族も行方不明になったら…何か変わったと思うか?」
「何で…そんなことを聞くの?」
「…どうだっていいだろ」
「……変わったと思うよ」

名無しの答えを聞いたベジータは、満足そうに微笑んだ。
それが何故なのか、それは分からない。

「俺は、お前の気持ちを分かってやれない」
「…知ってるよそれくらい。昔からそうだろ?」
「…まあな。だからもしお前と何もかも一緒だったら分かり合えるかと思ってな」

そこで名無しは理解した。

「成程。それでさっきあんなことを聞いた訳だ」
「そういうことだ」
「…そうだね、そしたらベジータも生意気じゃなくなるかもね?」
「フン、だが下級戦士は馬鹿にされる運命だろ?例えばお前のように…」
「下級戦士でも強くなった方だからいいじゃんか!」
「おい、ムキになるな。…しょうがない奴だ…」
「ベジータもすぐ怒る…って、そこは似てるんだな、俺達…」
「お前は昔いじめられたらしいから、どうせ家族に愚痴でも言ってたんだろう?」
「…ふんだ」

そっぽを向いた名無しに吹き出しそうになった。
もういい歳なのにまだどこか子供っぽいからだ。そして何よりも可愛い…そうベジータは思った。

「可愛い奴め…」
ドサッ
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