短編
□優しい彼
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ぐうううう
「ウエッ…」
さっきから腹が減ってしょうがない。まるで腹が「何でもいいから食べたいよー」とでも訴えかけてくるかのようだ。
うるさいしみんなに聞こえたら恥ずかしい。下痢だと思われるのだったらまだいいのだけれど。
ぐうううう…
「ああもう!」
朝食を何も食べてないのと食べるのでこんなに違うのか…
今から仕事なのに大丈夫だろうか…。
「よう名無し、早いじゃねえか」
今回一緒にとある星に行く仲間はターレス…なのだが紹介している場合ではない。
「や、やあターレス、集合場所ここで合ってるよね」
「ああ」
「じ、じゃあそろそろ行こうか」
「待て」
「えっ」
腹を片手で押さえながら歩こうとすると、ターレスが俺の肩を掴んで引き止めた。
「お前、何か顔が青いぞ。大丈夫かよ」
「え?そ、そうかなあ、アハハハ」
ひええ、早速怪しまれてしまった。
「名無し、お前…」
ぐうううううう
イヤーーーーーーーーッ!!
「…腹減って「気のせいです!!」いやでも「行きましょう!!」……」
ぐうううううううう
「ゲホゲホ、ああ風邪かなあ?ゲッホゲホッ」
咳をするフリをして嘘をついてしまった。
…ごまかせただろうか…
「……………」
ターレスの目が細くなった。俺の下手な演技を見て察したようです…。
バレバレだったのか…はあ…どうやら失敗したみたいだ。
*
「むしゃむしゃガツガツはぐ、もぐもぐ」
「凄い勢いだな…」
ターレスは「腹が減っては戦えないだろう」と言って、出発する時間を遅らせてくれた。
俺は用意してくれた食事をただひたすらに頬張る。嗚呼、幸せ…
「ふぁーへぶ、あひがと」
「何言ってるか分かりません」
「あひがと!」
「ああ、はいはいわかったよ、どういたしまして」
俺は王子やターレスのように大食いではない方だけど、
今回は彼等と同じくらい食べたような気がする。お腹いっぱい。
「優しいね、ターレスって」
「お前以外の奴にはしないけど、それでも優しいって言うのか?」
「うん」
「…そうか。お前に言われると、凄い嬉しい」
ターレスは珍しく顔を赤くした。彼はいつも余裕のオーラを放ってるから、こういった表情はめったに見せない。
見た事がある表情の回数で赤面は一番回数少なく、レアと言ってもいい。
「ほ、ほらもっと食えよ」
「うん」
そんな優しい彼が、俺は好きです。