短編

□恋をしている
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とある日の朝。
ドンドン

「チチさーんいますかー」
「はーい」

ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてくる。
そして間もなくして扉が開いた。

「名無しさ?珍しいなあこんな早朝に」
「ああ、すみません。悟空に悟飯君の修行の相手を代わりにしてくれないかと頼まれていて」
「悟空さったらまたけ…悟飯ちゃんがまた苦しい思いをするだ」
「すみません」
「いや、名無しさは何も悪くねえだ。
ちょっと待っててけれ、悟飯ちゃんを起こしてくるだよ」
「お願いします」

しばらくして、食パンを口にくわえながら悟飯がやって来た。

「すいませんおくふぇて」
「大丈夫。それでは、チチさんしばらく悟飯君借りますね」
「二人とも気をつけるだよー!」
「行ってきます!」

名無しはふと悟飯の方を見た。微笑んでいる。優しい笑みで。

「名無しさんとは初めて修行をしますね」
「そういえばそうだね。悟飯とは一度手合わせしたかったんだ」

すると悟飯は嬉しそうな声で、

「ボクもです」

と言った。
*
「お願いします」
「こちらこそ」

お互い一礼をすると、早速修行を始めた。
悟飯は名無しへ向かって突進する。
名無しは悟飯が何らかの作戦を持っていると考えじいっと様子を伺う。
悟飯は名無しのすぐ前で高く舞い上がる。
名無しはそれを目で素早く追った。

「だーーっ!!」

落下しながら蹴りを放とうとする。
名無しは悟飯の脚が当たるギリギリの所で後ろへ下がる。
悟飯の蹴りの衝撃で当たった部分だけ深い穴のようなものができた。

「好機!」

名無しはステップを踏んで悟飯の懐に飛び込んだ。

「っく!」

名無しの攻撃を危うくかわす。
緊張のせいで浮かんだ汗がぱっと飛び散る。
悟飯の拳が名無しの腹にぶつかる。
一瞬よろめき、距離をとるためステップで後ろへ数歩下がった。

「悟飯君、また強くなったな」
「いえ…名無しさんには敵わないです」
「はは、そんなことないさ」

二人の表情には、笑みがこぼれていた。
*
空はオレンジ色に染まり風も強くなってきた、夕方の荒野。

「ふう…今日はここまでにしようか」

名無しは泥だらけになった顔で、笑って言った。服も数ヵ所破れている。
夕日に照らされた名無しを見て、自然に顔が赤くなった。
名無しが見ても赤くなっていることが分かるくらい、
夕日が悟飯の顔をはっきりと明るく照らしている。
悟飯も服と顔を泥だらけにしていた。

「名無しさんは格闘も気弾の使い方もお上手ですね!」
「そ、そうかな。うーん、悟飯君は今のままでも強いけど、もっと強くなれるよ。自信を持って」
「わ、わかりました!」
「…よし、じゃあそろそろ帰ろうか。チチさんも待ってるし」
「は、はい」

次はいつ一緒に修行できるのかな。
悟飯は聞き出す勇気がなかった。でも
…今しかない。今しか聞けない。
そう思うと、無意識に名無しの服を引っ張っていた。

「…?悟飯君?」
「あ、あのっ……つ、次は、いつ修行出来ますか!?」

大きな声が出てしまって、恥ずかしくなった。
ぽかんと口を開けていた名無しは、ははっと笑った。

「いつでもいいよ」
「…!」

悟飯の目が、きらきらと輝く。
いつでもいいよ、だなんて。何て優しいんだろう。

「じゃ、じゃあ、明日もお願いできますか?」
「うん」

嬉しくて、言葉が止まらない。口が勝手に、滑るように動く。

(……あれ?…もしかして、僕…)

さっきから、顔が、身体が、胸が熱い。心臓がばくばくと激しく動いている。
これって……恋してるってこと?
と、そう思った途端に、名無しの顔がまともに見られなくなった。
心臓はずっとずっと、さっきから激しく動いている。

「悟飯君、チチさん待ってるよ」
「あ、あ、は、はい」

悟飯は金魚のように口をぱくぱく動かしている。
名無しはそんな悟飯を不思議そうに見つめていた。

「か、帰りましょう」
「?うん」

帰った後、チチに熱があるんじゃないのかと心配されたのは言うまでもない。
勿論、夜全く眠れなかった事も…。

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