短編

□勘違い
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「名無し」
「…あ…」
「…?」

名無しに声をかけてみると、
何故か身体を震わせ俺の顔を見た途端また背中を向けた。

「おい、名無し」
「い、嫌」

…嫌?
どうしてだ。何故そんなことを言うんだ。

「どうしたんだ」
「こ、来ないでくれ」
「何故そんな反応をする。言ってくれなきゃ分からない」
「やだ、嫌!」
「名無し!」

ただ「嫌」と言うばかりで、名無しの肩を掴んでいたが振り払われ
何も言ってくれないまま奴は逃げ出した。

「おい!待て!」

逃げる名無しの腕を掴んでひき止めた。

「離してくれ!王子なんか嫌いだ!」
「俺が何をしたって言うんだ!」

名無しは目を逸らす。
顔が赤い。目に涙を浮かべていた。

「だって、だって」

そして涙をぽろぽろと流し始めた。

「だって…?」
「王子が、浮気するから」
「…何だと?俺がそんなくだらん事をするわけがないだろう」
「してるよ!いつもカカロットと一緒にいるじゃないか!好きなんだろ?
だからもう構わないでくれ。俺なんかほっといてくれ!」

………勘違いをしているな。

「名無し、俺は単にカカロットと修行をしているだけだ」
「うっ、ううっ」
「だから奴が好きな訳ではない。
ほとんどの時間をカカロットとの修行に費やしてしまったことは謝る」
「……じゃ、じゃあ…勘違いしてたってこと…?」

震える名無しをぎゅう、と強く、離さないように抱きしめた。

「ああ。…誤解だ」
「あ…うっ…うわああああん」

大泣きする名無しの頭をそっと優しく撫でてやった。

「おうじっ、ひぐっ、うう」
「悪かった。…お前の事、ちゃんと好きだから」
「うっうっ、おれも、すき、んっ」

我慢ができなくなって、名無しの唇に口づけをした。
柔らかい感触が、俺の心をくすぐる。

「名無し」
「お、うじ」
「愛してるって、言ってくれ」
「え、あ…愛してる…」
「ああ。俺も愛してる」

名無しはおろおろと目を泳がせている。
俺はそんな可愛い名無しに気づかれないように、そっと微笑んだ。

「離さない」
「え…?」
「お前をずっと離さない」
「…王子…」

甘い声が俺の心の中に刻まれる。
いつでも名無しの愛らしい表情と甘い声が思い出せるように。

「嫉妬、したのか?」
「うっ、し、してない!」
「本当に?」
「し、してないってば!悲しかっただけ…」
「そうか…じゃあそう信じていいんだな?」
「………した」
「ん?」
「した!嫉妬した!」

…ぷっ。
やっぱりしたんじゃないか。

「嘘つきだな」
「う…うるさい。王子が悪いんだ」
「ああ、それは分かっている。…ほら帰るぞ」
「…うん」
「帰ったらいっぱい愛してやる」
「!う、い、いいです!」

名無し、好きだからな。

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