短編

□おれとおまえで
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小さな二人の手。
今日も朝から二人きりで外に出て。遊んだり話をしたり。
ベジータが名無しの頬にちゅ、と唇をくっつけると名無しもベジータの頬にちゅう、と柔らかい唇をくっつける。
毎日必ず一度はキスをするのがお決まりなのだ。

「名無し、おおきくなったらけっこんするぞ!」
「けっ、けっ…こん?」
「おまえはおれのよめだ!」
「王子のおよめさんになるの?」
「そうだ、おれはおまえのむこになるんだぞ!」
「えへへ、王子とけっこんかあ、うれしいなあ」

名無しはにぱにぱと顔を赤くして微笑んだ。
ベジータはぎゅう、と胸が締め付けられて、名無しを抱きしめた。

「王子のほっぺやわらかいね!」

ぷにぷにと柔らかい頬を指でつんつんしていると、
今度はベジータがさっきの名無しのように顔を赤くした。

「ば、ばか!さわるな!」
「ええ、なんで?ほらこんなにやわらかいんだよ。ぷにぷに」
「〜〜〜っ!だからやめろ!」
「王子、だいすき!」
「んなっ、い、今いうことじゃないだろ!」

身体を離すと名無しが「なんではなすの?」と頬を膨らませた。
近くにいたら、名無しに自分の心臓の音が聞こえそうで。
ベジータはどくんどくんと跳ねる心臓の音に恥ずかしさを感じた。
ぎゅう、とマントを握りしめる。じんわりと、汗が浮かんできたような気がした。
こんなにドキドキしていたら名無しに不思議に思われたりするかもしれない。

「王子、どうしたの?」
「い、いや…なんでも、ない」
「そっか。…ねえ王子、ちゅうして?」
「な、あ、く、唇に…か?」
「うん…」

名無しはゆっくりと目を閉じる。
普段はこんなに恥ずかしくなることもなく普通にキスできるのだが…。

(か、身体が…ふ、震えている…?)

今は違って、なんと自分の唇は震えていた。
この状態でキスすれば怪しまれるだろう。

「……名無し!」
「?」

名無しは目を開けない。

「あ、あとでしないか?」
「うん!あ、王子、ぼくたちが「けっこん」するっていうはなし、
おとうさんたちにいわなくちゃ!」
「あ、ああ、そうだな!」

ベジータは頭の中が混乱していたせいで、
名無しに腕を引かれて我にかえったときには、
既に名無しの家の中にいた。
*
「け、結婚……」

名無しの父と母は呆然としている。
兄のバジールは喜んでいいのだろうかとおろおろしている。

「おれが名無しをよめにしてやる!きょひけんはないぞこのやろー!」

名無しはベジータにうっとりしていて家族の反応に気づかない。

「………名無しは…それでいいのか?」

あんぐり口を開けていた父は、ようやく気を取り戻した。

「え?あ、うん!」

名無しも気を取り戻し、父の質問に答えるのが遅れた。
母は目をくるくる回して混乱状態。バジールは相変わらずおろおろしている。
下級戦士の弟と、この惑星ベジータの王子が結婚するなどと、
天地がひっくり返ってもないと思っていたが。絶対にないと思っていたことが普通に起こった。
これはしばらく惑星ベジータでは大きな騒ぎになるだろう。いや、むしろ名無しは祝福されるのでは…。
いや、そもそもベジータ王はどう思われるのだろうか…
…それよりも、この歳で結婚という言葉、意味を知っている二人は一体…。

「おれのおやじにもいってくる!」
「おとうさん、おかあさん、おにいちゃん、これからもよろしくね」
「あ…ああ…」
「え、ええ…」
「お、おう…」

名無しの家族は、
突然の結婚宣言で頭が混乱し、曖昧な返事しか返すことができない。
いきなり結婚するなんて、まさかエリート戦士、尚且つこの惑星の王子が。
苛められてばかりの下級戦士の息子、名無しと結婚をするだなんて。
勿論自分の息子が幸せになるのだから嬉しいことだが、
何故そうなった、自分達が見ていない間に二人に一体何があったという疑問もあった。
結局二人を止める事も出来ず見送ってしまった。
*
「おれとおまえでみらいをつくる!」
「うん!」

二人は手を繋ぎ輝きを放っていた。
まさか大人になってからあんな仲に、あんな性格になるだなんて知るよしもなく。

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