短編
□お風呂
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「悟飯君、たまには銭湯とか行かないか?」
「あっ、いいですね!」
寒い冬のある日のこと。
名無しは家の風呂じゃ寒いから、銭湯に行こうという案を出した。
悟飯は勿論賛成した。確かに家の風呂はシャワーを浴びていないと寒いし、
何しろ二人で風呂に入ったことがないので絶好のチャンスと思ったからだ。
(名無しさんは僕よりも筋肉あるのかなあ…)
でも最近は自分のように戦っていないし、などと考えていると、
「悟飯君?」
名無しがもう既に準備を整え、外に出ようとしていた。
「わ!す、すみません、今行きます!」
(名無しさんと一緒にお風呂だなんて幸せ♪)
ルンルン気分で悟飯はスキップしながら名無しについていった。
*
「おや、いいときに来たね。今誰も入っていないんだよ」
「えっ、そうなんですか?車がひとつも停まってないと思ったら、そういうことだったんですか…」
老婆がにこにこしながら名無しに言った。
悟飯は二人きり!と心の中で喜びの叫びをあげる。
「じゃあ大人2人だから、600円ね」
「わかりました」
名無しが代金を支払い、
二人は男湯の入り口へ向かった。
*
二人は大きいプールと同じくらいの広さの浴槽に目を見張った。
「広いね」
「は、はい」
(ああ、名無しさん、いい体してるなあ)
お湯をあびて、石鹸で耳の後ろをこすりながら、悟飯は思った。
石鹸はいい匂いがした。体をごしごしと洗っていると、
「悟飯君」
名無しに声をかけられた。
「あっ、はい。何でしょうか?」
「背中洗おうか?」
「っ!?」
悟飯は顔を一気にピンク色に染めた。
「?ご、悟飯君。大丈夫か?」
「あわわ、ぜ、ぜひお願い致します!!」
「そ、そう?」
(はうう、名無しさんに洗ってもらえるだなんて…幸せ…)
ごしごしと背中を洗ってもらっている間、
悟飯はうっとりしながら、脳内で名無しの声を何度も再生していた。
「悟飯君、ちょっと痩せたね」
「え、そう、ですか?」
「うん。…はい、もう洗っていいよ」
「あ、ありがとうございました…」
「いえいえ」
(出来れば洗いたくない…それに、他の人に背中を触られたりしたら最悪だ!)
名無しさんにせっかく洗ってもらったのに、触られたら台無しだ。
悟飯はそれでも、洗わないと服を着れないので、仕方なく頭からお湯を流したのであった。
「さてと、そろそろ入ろうかな」
名無しは立ち上がり、浴槽に入った。
悟飯も続いて、名無しの隣にゆっくりと体を下ろす。
「名無しさん」
「ああ、はい、何か?」
「あったかいですね」
「うん、そうだね」
名無しは微笑んで頷く。
悟飯はふと、名無しの尻尾を触りたくなった。
そして手が自然に動き、ぎゅっと尻尾を少し強めに掴んだ。
「ひゃっ!」
名無しは敏感に反応した。
「…悟飯君…」
「す、すいません。ちょっと触ってみたくて…」
(あんな可愛い声出すんだ…)
悟飯はまたひとつ、名無しさんの事を知ることができたと
心の中でガッツポーズをした。
「…あんまり触らないでね…」
「どうしてですか?」
「昔から弱いんだ。ちゃんと鍛えてるんだけど…変な声出しちゃうし」
「………そうですか…」
悟飯は、弱点があったのかと、驚いた。そして同時に、にやりと笑った。
勿論、その笑みは悪そのものである。
(使える!)
そう思った悟飯であった。