短編
□GO!GO!天下一武道会@
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「はっくしゅん!」
名無しは大きなくしゃみをした。
(なんだか誰かに見られている気がする…)
きょろきょろと辺りを見回す。が、誰も名無しのことを見ていない。気のせいか、と思った瞬間。
「名無し」
ぎゅうっ
「!?!?」
後ろから突然誰かに抱きしめられた。
だ、誰だ、この声聞いたことがあるぞ、と、まさか、と思いながらゆっくり後ろを見ると…
「あ、ああ、はわわわ」
一番気づかれたくない相手…ベジータだった。
「え、名無し?し…知らないな、人違いじゃないですか?」
引きつった笑みで言うが、ベジータはむっとした顔で、
「見え透いた嘘をつくのはやめろ。お前がさっき、一瞬だけ気を大きくしたとき、
貴様の気だとすぐにわかった。いや…貴様の姿を見たときから俺は大体気づいていたぞ」
ぎくり。名無しはあっさりと気づかれてしまった…とがっくりとうなだれる。
「貴様の腕がどれだけ上がったか見せてもらおうか」
「い、いや…上がってもないし、むしろ劣ったと思うよ」
「それよりも貴様、油断して負けたりするなよ」
「油断なんかしないよ! だって、強い人たちがいっぱいいるんだから…カカロットや悟飯君までいるし」
「まあいい。…貴様は決勝戦で、俺と戦うんだからな…」
「ええっ!?」
名無しは思わず大きな叫び声をあげた。
ベジータと戦うなんて、自分的には何だか力を出しづらい。それに、フルボッコにされてしまいそうで怖い。
いや、それよりも、悟空や悟飯とはきっと当たるだろう。そして負ける。そしたら、ベジータに怒られるのであろうか?
そもそも、なぜベジータは自分と戦いたいのか?疑問が浮かんだ。
「な、何で。ベジータはカカロットと戦いたいんじゃないの?」
「違うな。俺は貴様と戦いたいんだ」
と、そこで、少年の部が終わった。これから大人の部が開始される。
「えーでは、これより大人の部を開始します!最初の対戦者は…」
試合が始まるというのに、ベジータはまだ体を離してくれない。
「ベ、ベジー、タ、そろそろ行ったほうが…」
「…チッ、仕方ないな…まったく、貴様はすぐ顔を赤くしやがって…」
腹部にまわしていた両腕を離す瞬間、ベジータは名無しに顔を近づけ、耳元で囁いた。
「負けたらお仕置きだからな」
「!? おっ、お、お仕置きっ!?」
「そんなにうれしそうな顔をされては、どう反応すればいいかわからないな」
「はっ!? いや、別に嬉しそうな顔なんてしてな…!」
重なる唇。ベジータの大きな手が、名無しの手を優しく握る。
ベジータにキスをされ、ようやく落ち着いた心臓がまた激しく跳ねる。
「まだ俺は、貴様から離れたくない」
「え、いや、そんな、こと、言われてもっ」
「決勝まで来い。俺が勝ったら……」
「勝ったら…?」
一瞬だけ、間が空く。
「………いや。何でも、ない…」
名残惜しそうに、手がゆっくりと離れた。
「待っているからな」
ベジータは背中を向けて去っていく。
名無しは、ベジータの大きな背中が、何故か今は小さく見えた。
そして、戦いは始まる。