短編
□GO!GO!天下一武道会A
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名無しはベジータに気づかれてしまったので、変装用の服とサングラスを外し、いつもどおりの格好になった。
(なんとしてでも勝たなくちゃ。なんだか、ベジータ、様子が変だったし…)
あの小さな背中…何か引っかかる。
名無しはもやもやして仕方がなかった。決勝まで行ったら、ベジータは自分に何を言うのだろうか?
(考えていても仕方がない。とりあえず、決勝まで行かないと)
名無しは頭を振って考えを中断し、頬をたたいた。
そして気を引き締めると、自分の番が来るまで慎重に待った。
*
準決勝まで進むと…残ったのは、悟空と悟飯、名無しとベジータであった。
観客は想像をはるかに超えた強さの無名の選手、名無しに注目していた。
「それでは、孫悟飯選手対バッド選手の試合が始まりますよー!」
アナウンサーはすっかり張り切っている。
「名無しさん、僕ずっと、あなたと戦いたかったんです!」
「悟飯君、見ない間にすっかり大きくなったね」
悟飯はほんのり顔を赤くして、うっとりした声で名無しに言った。
「あの…名無しさん」
「?」
「い、いえ。やっぱり、何でもありません。…はあっ!」
悟飯は超サイヤ人化すると、落ち着きを取り戻した。
名無しはさっきまで気持ちが落ち着いていたのに、ベジータの視線を感じると胸が騒ぎ始めた。
(だ、だめだ。集中できないよ…)
一応超サイヤ人にはなるのだが、どうも心は落ち着かない。早く決勝戦まで行きたい。
ぼうっとしている名無し…試合が始まったことも露知らず…突然悟飯に腹を殴られた。
「ぐあっ!」
「名無しさん、どうしたんですか?」
「う…な、なんでも、ないよ」
悟飯の動きについていけず、気づけば自分の体はボロボロになっていた。
目まいと頭痛がダブルで自分を襲ってくる。大粒の汗が、ぽたぽたと地面に落ちていく。
「おーっと、バッド選手、苦しんでいるようです!孫悟飯選手、攻撃に隙を見せませーん!」
「名無しさん…」
突然、悟飯は攻撃するのを止めた。
観客は膝をがっくりと落とす名無しに「どうしたんだ?」と、不安の声をあげる。
「大丈夫ですか?もしかして、具合が悪いのですか?」
「……ううん、違うんだ…」
「…名無しさん、すごい汗かいてますよ」
「ご、ごめん」
名無しは悟飯の顔を申し訳なさそうに見ている。
なぜか悟飯は察しているかのように、名無しの肩に手を置いた。
「何か言われたんですか?」
「うん…ベジータに…決勝まで来い、待っているからって」
「……。そうでしたか…きっと何かあるんでしょうね」
「なんだか不安なんだ。だから集中できなくて」
この二人のやり取りを、悟空とベジータはしっかりと聞いていた。
悟空はきょとんとした顔でベジータのほうを見る。
「おめぇ、何いったんだ?」
「…たいしたことではない」
ベジータはそれっきり何も言わなくなった。
「…僕、なんとなく、わかりましたよ」
「?」
「ベジータさんは、きっと今まで貴方には言えなかった気持ちを、今、伝えようとしているんです」
「言えなかった気持ち…?」
「隠していた、素直な気持ちをね。…ハッキリと、貴方に言おうとしているんです」
「悟飯君…」
「……名無しさん、僕を思いっきり突き飛ばしてください」
「えっ?」
「いいから、早く」
「…わ、わかった…はっ!」
ドンッ
強く突き飛ばすと、悟飯はそのまま競技台から落ちた。
「あ…場外!バッド選手の勝利!」
「な、なんだ?いきなり無名のあいつが突き飛ばしたかと思えば、あっさりとまあ場外負けに…」
「それにしても、途中あいつら何か話していたが何を話してたんだ?」
「さあ…それはわからん」
悟空は首を傾げる。
「悟飯、今わざと負けたな」
「……」
「後で理由を聞かせてもらわねえとな。さ、次はオラたちだぞ、ベジータ!」
「…ああ」
ベジータは競技台から落ちたときの悟飯の表情をしっかりと見ていた。
悲しそうな表情。まるで、何かを諦めたかのようで。
何か、というのは、きっと彼がずっと前から想っていた人物のことだろう…。あくまでベジータの予想なのだが…。
試合が終わった後…名無しは会場から去ろうとしていた悟飯を呼び止めた。
「悟飯君」
「試合見なくていいんですか?」
「……悟飯君が、何でさっき、あんなことをしたのか聞いてからね」
「あんなこと?…ああ。だって、僕、わかっちゃったから」
「わかった? 何を?」
悟飯はくすりと笑った。
「ベジータさんはね、貴方を好きなんですよ」
「…!?えっ?ベジータが…?」
「ほら、あの人素直じゃないでしょう?だから今まで貴方に思いを伝えられなかったんですよ」
「……そう、だった…んだ」
「僕も名無しさんのこと好きですけどね」
「!?」
悟飯はきっぱりと言った。
名無しはまさかの悟飯の告白に頭が混乱した。
「それじゃ」
「あ…」
手をひらひらと振ると悟飯は去っていってしまった。
*
「あーあ…僕ったら、何してるのかなあ」
額を押さえて薄く笑う。
「まあ…答えはもうわかってるから、いいんだけど」
名無しさんはベジータさんのことを好きなんだって。
*