短編
□悩み
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「父さん…母さん…兄さん…俺、どうしたらいいんだ?」
「…えーっと…兄さんは、王子を選んだほうがいいと思うぞ…たぶん…」
「私はターレス君かしら…名無しのこと、大事にしてくれそうだもの…うーん、でも…」
「父さんは、名無しが幸せになるんだったら…どっちでもいいぞ」
名無しは悩んでいた。名無しは、昨日のパーティーで、
ベジータには結婚の話をされ、ターレスにも好きだと告白され、混乱し気絶してしまったのだ。
どちらを選べばいいのかわからないのだ。勿論ベジータもターレスも好きだ。
だが…付き合うとしたら、どちらかを選ばなければならない。家族に相談するものの、皆曖昧な答えしか出してくれない。
「とりあえず、ゆっくり考えてみろよ。急ぐことないさ」
「そうね。母さんもそう思うわ」
「しかし、名無し。お前は本当に幸せ者だな」
「……」
わかった、と小声でつぶやくと、家を出た。
(どうすればいいんだろう…それにしても…俺は二人とも好きだけど…それって、贅沢じゃないか?)
どちらかを選べば、どちらかが傷つく。
そんなこと、出来ない。けれど、二人は本気だ。どっちとも好き、なんて言ったら彼等はきっと怒るだろう。
自分でも、何処に行こうとしているのかもわからないまま、ただひたすら、歩いていった。
(だめだ。さっきからずっと昨日のことばかり考えている…落ち着かなきゃ…)
俯いていたので、前が見えなかった。
そのせいで、人にぶつかってしまった。
「うわ…」
力が抜けていたので、よろめいた。
(倒れる…)
が…誰かが支えてくれたので、倒れずに済んだ。
「ターレス…」
彼は、自分に好きだと言ってくれた、昔からの友人だった。
*
「名無し、大丈夫か?顔が赤いぜ?」
「えっ…?」
名無しは手で自分の頬を触った。
すると、熱を出したんじゃないかと思う位、すごく熱かった。
(ど、どうしちゃったんだ…ターレスの顔を見て赤くなるだなんて…)
「ご、ごめん…あ、その、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして…全く、ホントに可愛い奴だな…」
なでなでと頭を撫でられて、身体がじわっと燃えるように熱くなった。
心臓がばくばく言って激しく動き出す。
「ねえ、ターレス…昨日のことだけど…」
「ああ…」
「俺、まだよくわからないんだ…
もう少し、考えなくちゃいけない。時間が必要なんだ。それまで…待っててくれないかな?」
「勿論いいぜ。俺はお坊ちゃまみたいに急かさねえよ」
「ありがとう」
「…でもよ」
「えっ……んむっ」
突然身体を引き寄せられたかと思うと、唇が重なった。
そして、何秒経っただろうか、苦しくなってきた時、ちょうどターレスが唇を離した。
「お坊ちゃまを選んだら、許さねえからな?まあ、分かってるとは思うけど…一応な」
「あ…タ、ターレス…」
「俺、本気でお前のこと好きだから」
首にキスすると、チュッ、とリップ音を立てた。
そして、「じゃあな」と言って手をひらひら振りながら去っていった。
名無しは去っていくターレスをぼうっと見つめながら、キスされた部分を触った。
「……キス、されちゃった…」