短編

□タバコ
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「…くしゅっ」
「オイ、風邪か?」
「あ、いえ…」

冷たい風が吹き続ける。
バーダックさんはタバコをくわえながら、ちら、と横目で僕を見る。
そっと寄りかかってみると、彼は僕の肩に手を置いてくれた。

「もう深夜だな」
「えっ、もうそんな時間ですか?」
「まあな」

どこか乱暴に言うと、彼は二度まばたきをした。
タバコのケムリ、独特な匂い。
その匂いを感じながら、ふっと目を閉じる。

「ちょっと、涼しすぎますね」
「だな」

何も話すことはない。けど、何もしなくたって、彼と居るだけで僕は十分幸せだ。
だって僕は、彼のことが大好きだから。

「ねみぃな」
「ですね」
「…だが、何か帰りたくねえんだよな…」
「僕もです」

眠そうに目をこするバーダックさんにくすっと笑ってしまう。
彼は時々、可愛らしい一面を僕に見せてくれる。

「……なあ名無し」
「はい?」
「てめえのこと、好きだぜ」

唐突に彼はそんなことを言い出したので、僕はあんぐり口をあけた。

「えっ……ええと、あの…バーダックさん?」
「……んだよ」
「いきなり、どうしたんですか?バーダックさん、いつもそんなこと言わないのに…」

すると彼はむっとしたような顔をした。

「あん?何か文句でもあんのか?」
「い、いやそういうわけじゃないです!嬉しいです!」
「……なんだよお前…」

ほんのり顔を赤く染めるバーダックさんは、誤魔化すかのようにタバコを素早く吸った。

「僕もバーダックさんのこと好きですよ」
「……当たり前だろーが。じゃなきゃ付き合ってなんかねえだろ」

そう言っているけれど、口元が若干緩んでいた。嬉しいようだ。

「あはは、そう、ですね」

しばしの沈黙。
バーダックさんの、僕の肩に置く手の力が強くなった。
バーダックさんは空いている方の手で頭をボリボリ掻いた。

「俺はあんまレンアイとかよくわかんねーから、色々間違ってんだけどよ、お前を好きなことだけは間違いねえよ」
「僕も同じですよ。バーダックさん」
「まあ…これからもよろしく頼むぜ、名無し」
「はい!」

バーダックさんは、「ん」と小さく微笑むと、僕のほうへ顔を向けた。
そして、ゆっくりと目を閉じた。僕はそれで彼のしたいことがわかった。僕も目を閉じて、顔を彼のほうへ近づけた。ぷちゅ、と唇が重なる。
キスをしているときだけ、時が止まっているかのようだった。――――どれくらい経っただろうか、バーダックさんが唇を離した。

「んじゃ、寝るか…朝早くから仕事があるしな」
「あっ、そうでしたね。それじゃあ、帰りましょうか」
「ああ」

部屋の前まで戻ると、短いキスをして、僕達は別れた。

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