短編

□Fruit of the tree of might
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「ターレス」
「ん?」

愛しい俺の名無し。俺にぴったりと寄り添うお前は何て可愛いんだ。
横になりながら、名無しの腰に手を回して笑って見せた。

「…えっとね、…実は…さっきから、お腹すいてて…」
「なんだ、それなら早く言えばよかったじゃないか」
「でも、ターレスに迷惑掛けるかなって…」

名無しの額にキスを落とすと、するりと髪を撫でる。

「くく…お前ってヤツは…困ったやつだな」

待ってろ、と言うと、俺は神精樹から実を一つもぎ取ると名無しに手渡した。

「おいしい」
「そうか、だがあまり食いすぎるなよ」
「うん」

心を支配しちまうと、名無しはガキっぽくなった。別人のように感じるときもある。
だが、甘えん坊で俺に抱きついてくるところが可愛くてたまらない。

「ターレス、次は何処の星に行くの?」

神精樹の実を食べ終わった名無しは、また俺に抱きついて言った。
膝の上に乗せて、名無しの尻尾に触れながら、俺は答える。

「まだ考えていないんだ。名無しは行きたいところはあるのか?」
「ううん」
「そうか…それなら、しばらくは此処で過ごすか。ゆっくり過ごすのも悪くない」
「うん、それがいいね」

此処は何もない、高値では売れそうにない汚れた星。
退屈だが、名無しと居られるのなら、それだけで十分だ。

「…名無し、お前の尻尾、柔らかいな」
「っ、そんなにさわっちゃ…」
「何だ?もしかして、尻尾鍛えてねえのか?」

名無しの尻尾を舌で舐めてみると体をびくんと震わせた。
…今俺どういう顔してるんだろうな…ニヤニヤしてるかもしれない。

「そんなわけじゃ、ないけど」
「ふうん」

ふと、名無しの姿をじっくりと見ていると、思った。

「お前…」
「?」
「また色っぽくなったな」
「!?な、何言って…」
「ハハ、そんなに驚くことねえだろ…」

俺が毎日お前を抱いているからこんなことになったのかもしれないな。
ああ…こいつの姿を誰にも見せたくない。

「名無し」
「なに?」

自分の唇を指差すと、名無しは「分かった」と言って頷く。
そして、名無しの唇は俺の唇に重なった。

「可愛いな、お前は」
「ターレスが好きだから」
「くくっ。俺もだ」

しばらく抱きしめあっていると、名無しは突然身体を離した。

「どうした?」
「見て、ターレス、神精樹が…」
「…ああ…」

気づけばもうこんなに実がなっていて少し驚いた。
名無しは「綺麗」と言って喜んでいる。

「しかしお前、毎日神精樹の実を食ってて、飽きないか?」
「ううん。美味しいから大丈夫」
「そうか…」

食い過ぎて名無しが俺のように筋肉隆々でたくましい奴になってしまったら、と思うと嫌な気分になる。
まあ今のところ特に姿に変わりはないから別にいいんだが…。今の名無しが一番だ。

「名無し、そのままの姿でいろよな」
「?どうして?」

突然の俺の言葉に、名無しは首を傾げるだけであった。

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